〈足を観察すること〉
皆さんは利用者の足を観察したことがありますか?「見たことがない!」という方は、ぜひ、自分の足と比較しながら観察してみてください。前回お伝えした「靴と足のマッチング」と同様に、「どれくらい関節が動くのか」「足裏の弾力はあるのか」「皮膚状態はどうか」といった足の状態を知ることも、靴選びにおいては大変重要です。
介護福祉士の職務の中には「全身状態の観察」が含まれていると思います。しかし、なぜか「足」だけがぽっかりと抜けてしまっていることが多いようです。それは、足を観察する「必要性」を感じていないからではなないでしょうか。
「高齢者は歩みが遅い」とひとくくりにして考えていませんか?今回は、高齢者の歩行について解説しながら、どのような靴を選ぶと良いのかを見ていきたいと思います。
〈高齢者の歩行の特徴〉
私たち人間は、2本の足を交互に振り出して歩きます。歩行時には、「片足が地面に着いている時間(片脚支持期)」と「両足が着いている時期(両脚支持期)」があるのですが、ここで、わざと足を高く上げながら、ゆっくり前に進んでみてください。
どうでしょうか?そのほとんどが「片脚立ち」になりませんか?当たり前の話ですが、片脚立ちはバランスが悪いです。
高齢になると、バランスをとるための筋力や平衡機能が低下するため、自然と両足が着いている時間を長くとるようになります。加えて、地面を蹴ることにより一歩を踏み出すわけですが、この蹴る力も弱くなるため、その一歩一歩(歩幅)が短くなります。
また、歩行の際、宙に浮いた足が伸びたままでは地面にぶつかってしまうので、私たちは無意識的に膝を曲げ、足首と足の指を上げて、脚の機能的な長さを短くして脚を前に振り出します。この動作についても、筋力の低下した高齢者は「足が上がっていない」状態となり、歩行の際に地面と足(靴底)のすき間が少なくなります。そのため、小さな段差などにつまずきやすく、転倒の原因となってしまうわけです。
ぜひ、高齢者の歩行を自分の足で再現してみて下さい。コツは「両足が地面に着く時間を長くして小股歩きで足をあまり上げない」です。
そしてもう一つ、その歩き方で歩くスピードを上げてみてください。大股にしてはいけませんよ。どうでしょうか?すり足になり歩数が増えませんか?
通常、私たちは自分の身体に負担のない最適な歩幅を無意識に選んで歩いています。それは高齢者も同じで、筋力の低下した高齢者にとって最適なのは小股歩きだということなのです。
高齢者が若い人と同じ速さで歩こうとするならば、歩数を増やさなければなりません。高齢者の歩き方を見た目で真似してみるのは簡単だと思います。でも、なぜその歩き方になっているのかを考えたことはなかったのではないでしょうか?
こういった視点を入れながら、「なぜこの人はこのような歩き方になっているのか」を考えることができれば、高齢者の靴選びも変わってくるかも知れません。
〈高齢者に適した靴〉
高齢者の足の特徴と歩き方の特徴が分かったところで、いよいよ靴を選んでいきたいと思います。靴を購入する際の参考にしてみてください。
○ポイント1 靴内部の内張り
高齢者の皮膚は薄く、傷ができやすくなっています。靴内部の内張りはクッション性があり、段差を生じるほどの縫い目がないものを選びましょう。
歩行中は靴の中でどうしても足が動くため、内張りとこすれてしまいます。この時、少しの段差でも傷を作ってしまう可能性があるのです。
○ポイント2 靴のつま先
靴のつま先は、足先がぶつかった時に防護する役割があります。柔らかいものだと爪が欠けてしまったり、ケガのもとになったりするため、つま先部分の覆いに芯が入っており素材も硬めのものが理想です。
また、足の振り出しの時に地面に引っかからないよう、靴を置いた時につま先が1~2cm上向きになっている靴を選ぶと良いでしょう。
○ポイント3 靴のクッション性と靴底
足裏の脂肪層が薄くなっていると、硬い地面や床を歩くと痛みを感じることがあります。かかと部分と踏みつけ部(指の曲がる付け根)の下にクッションがある靴を選ぶと良いでしょう。靴底は、底が軽くカーブを描いているような舟底型(写真1)であれば、かかとから接地し、蹴り出すまでの体重移動を補助してくれます。
また、足の指の付け根と靴の曲がる位置が合っていると、関節に無理がかからず理想的です。

○ポイント4 靴の重さ
足を振り子のように振って歩くことを考えると、若い人であればある程度重さのある靴の方が歩きやすいのです。一方で、高齢者はすり足歩行の人も多いため、片足250g以下の靴を選ぶと良いでしょう。
○ポイント5 中敷き
既成靴には、中敷きが抜ける靴と抜けない靴があります。中敷きが抜ける靴の方が足サイズを確認するのが簡単で、靴の中が汚れた時には中敷きだけを抜いて洗うこともできるため清潔が保ちやすいです。
また、土踏まずの部分が盛り上がった中敷き(写真2)があれば、落ちてきてしまった足関節を支えることもでき、靴の中での足の前滑りを防止する効果もあります。中敷きを入れるとワンサイズ小さくなりますので、大きすぎる靴に入れてサイズを調整することもできます。中敷きのない靴を買って中敷きを入れる場合も、サイズを考慮しましょう。

〈外反母趾〉
外反母趾は高齢の女性に多くみられます。親ゆびの付け根がくの字に曲がってしまう足の疾患です。外反母趾の人は足の幅が広く、靴を履いた時に靴の内部に指の付け根が当たり靴の格好を変えてしまうことがあります。靴の素材が硬いものだと、皮膚が赤くなったり、痛みを感じたりする場合があるため、多少伸縮性のある素材の靴(写真3)を選ぶと良いでしょう。
高齢者用の靴で、広い足幅に対応するものもありますが、靴全体がごろんとした大きい靴になっているため、足幅に対して小さいかかとが抜けてしまい、歩行には適さない場合も多いです。
親ゆびの付け根が痛むため絶対に当たらない靴を履きたいのであれば、幅に合わせた靴でも良いかと思いますが、歩くためであれば5E程度でとどめ、中敷きで足幅を整え、足長サイズがワンサイズ大きい靴を選ぶなどし、足が靴の中で遊ばない靴選びをしてあげましょう。

〈厚い爪〉
高齢者の中には、爪切りでは切れないような厚い爪の方がいらっしゃいます。指先全体が厚くなってしまうため、靴の先の部分(トゥボックス)に余裕(高さ)のある靴(写真4)を選び、前回紹介した靴の履かせ方を徹底して行うようにしましょう。
私たちは高齢者のフットケアをする中で、靴の中で足が前滑りし、ゆび先が圧迫されて爪周囲炎を起こしている方を多く見ています。厚い爪は病院や専門の業者に薄くしてもらうのが最善です。これは応急処置的に考えていただきたいと思います。

まとめ
これまで3回に渡って、高齢者の足の特徴に触れながら靴の選び方についてお伝えしてきました。靴は福祉用具として販売をされていることを考えると、生活を補助する大切な道具であることが分かります。すなわち、介護従事者はその使用方法を適切に理解する必要があるということです。
一方で、残念ながら日本人の多くが靴の選び方を間違えており、高齢者でなくとも足のトラブルを多く抱える方がいます。まずは、自分の足もとを点検し、正しい靴の履き方をしてみましょう。そうすることで、利用者が歩きやすいのか、そうでないのかがわかるかと思います。
正常が分からなければ、異常は分かりようがありません。正しい靴選びは自分の身体を守ることになりますので、ぜひ実践してみてください。
また、靴選びは今すぐできる利用者へのフットケアです。まず正しい靴の履かせ方を実践してみて下さい。きっと歩き方がその場で変わりますよ。 |