2020年より国内に感染者が拡がった新型コロナウイルス感染症。2021年3月21日で1都3県(東京都、埼玉、千葉、神奈川)に出されていた緊急事態宣言は解除されましたが、新規感染者数は依然下げ止まりの傾向をみせており、第4波への警戒が高まっています。
今回は「玉突き支援」をテーマに、クラスター発生施設に対する外部支援の現状についてお伝えします。
〈玉突き支援とは〉
玉突き支援とは、クラスターが発生した施設への直接の支援ではなく、その施設の属している法人の他施設への支援のことを言います。同法人の他施設に支援が入ることで、その施設の職員がクラスター発生施設へ支援に行きやすくなります。この一連の動きをビリヤードの玉の動きに見立てて「玉突き支援」といいます。
新型コロナウイルス感染症の外部支援において、各都道府県で実施している仕組みもこの玉突き支援を基本としています。その理由は、外部支援者の感染リスクを減らすためです。
また、クラスター発生施設がある地域の病床がひっ迫しているなどの理由から施設内で陽性者のケアが求められた場合、外部支援者はゾーニングをした上で防護服の着脱を徹底し、ケアにあたる必要があります。
そして、その中に入る支援者には、感染予防についてしっかりとした知識や経験があり、ケアについても少ない情報のもと臨機応変に対応でき、支援上の感染のリスクを受け入れた人材が必要となります。このような人材は限られていることからも、玉突き支援が基本となるのは必然かと思います。
〈支援者に求められる要件〉
支援場所ごとの支援者に求められる要件例を表に示します。クラスター発生施設でも、「ゴミを集める」「掃除や消毒を実施する」「物資を整理する」などの後方支援が安全にできる体制があれば、求められる介護の経歴は少し緩くなり、場合によっては未経験の方でも十分に支援をお願いすることが可能になります。

〈玉突き支援の実際〉
ここまで述べてきたことから、玉突き支援は支援者にとって安全で非常に効果的に見えますが、実態としては課題も多くあります。
まず、玉突き支援が活用できる施設は、自法人の他施設からクラスター発生施設への応援が可能となる程度の規模が必要ということです。例えば、グループホームなどの小規模施設1つを運営している法人でクラスターが発生した場合は、同法人内で応援を派遣することが難しく、玉突き支援を実施することが難しいのです。
また、玉突き支援の場合は支援に入る施設に陽性者や濃厚接触者がおらず、ゾーニングや防護服の着脱などもなく、ケアについてもしっかりと情報を得ながら支援に入ることができることから、介護の経歴も新人以外であれば十分な支援になる可能性がありますが、ここで注意が必要です。介護業界は慢性の人手不足で、職員の入れ替わりが激しい施設も多くあります。加えて、クラスター発生施設への支援で人手がいない状況から、支援者に十分な情報を伝えることができず即戦力を必要とする場合も多くあります。そのため、実際の支援に入る前にはそれらの確認と、その状況にあった支援者を調整する必要があります(図1)。
実際に今回のクラスター発生施設への支援の中で、支援先の職員に「短期間の応援派遣」ということが伝わっておらず、「一般のパート職員」として扱われた例や、ケアについての情報が十分に伝えられずにケアをしなければいけない状況がありました。

実際には、マッチングの前にしっかりと確認ができないこともありますが、事前に確認できているとその後スムーズになると思います。
また、1日だけの支援者を連日受け入れる場合は、その効果よりもその調整に労力がかかり、かえって大変になります。支援の調整では、入る人数を増やすよりも、「一人の支援者が出来るだけ多く(頻度)、長く(期間)」することが、支援先の負担を減らします。
今回の新型コロナウイルス感染症の支援でも、経験が十分な2人の支援者を1カ月間に7日程度(週2日程度)で調整してもらい、はじめは教えてもらうこともあって受け入れ側職員の負担もありましたが、すぐに慣れて順応することができ、支援終了時にはそれぞれの施設で働いてもらえないかとお声かけ頂けることになりました。
支援先の状況を確認し、いかに負担を少なく支援を送れるかを考えることは非常に重要です。
〈支援を受ける(受援)側の用意〉
外部支援者を上手に活用するためには、下記項目を事前に準備し、受援力を高めることが重要です。
①受け入れ窓口の担当を決める
②その日の担当者の設定
③見取り図の用意(支援者に配布)
④一日の流れの用意(支援者に配布)
見て頂けると分かるように、平時の新人職員の受け入れの流れとかなり近いものになります。支援に入ってもらう際、抜けや漏れがなく説明ができるように窓口担当を決めて、施設の体制や大切にしている理念など伝えると良いでしょう。
また、支援に入る日毎に指導する担当者を決めることも必要です。支援者は初めて入る場所で不安も抱えていますので、担当者を明確にすることで安定して支援に入ることができます。
さらに、支援者に配布する書類として「施設見取り図」や「1日の流れ」を事前に用意しておくと非常に効果的です。物品の配置や利用者の居室の位置、食堂の座席位置などについて説明する際、そこにメモを取ってもらうことで理解が早くなり、1日のスケジュールの中でどのように動くかも合わせて理解ができるので、伝える側の労力や時間も効率化することができます。支援に入っている時期だけ、それらをスタッフルーム等に貼りだしておくことも良いと思います。
〈支援する側の用意〉
最後は支援する側の用意です。筆者は、風水害の被災地支援や今回のような感染症のクラスター発生施設支援ではコーディネーターとして動くことが多いですが、支援に入る方には必ず事前の研修や適宜状況の確認やフォローアップを実施します。
その中で支援者へ必ず伝えることは下記になります。
①支援先の状況(リスクは特に)
②処遇(支援に入る時間、支援内容、交通費、報酬、事故があった時の対応など)
③支援に関する心構え
④支援中の状況と支援者の心境
特に③は時間を掛けて説明することを心がけています。
心構えはいくつかあるのですが、その中でも、「ケアについては原則、支援先に合わせること」が重要です。理由は、介護の方法や何を大切にするかは法人それぞれ違いがあり、そのギャップが少なからず支援者の精神的な負担になったり、支援先とのトラブルの原因になったりする可能性があるからです(図2)。
今回の新型コロナウイルス感染症のクラスター発生施設支援でも、2人介助や排せつケアの在り方で戸惑った支援者もいました。私の経験上、キャリアの長い人ほど葛藤や戸惑いが大きくなることが多いように思います。
明らに虐待とわかるようなケースは別にして、現在のケアのあり方は、その施設の長年の経過の中で出来上がったもので、そこには様々な背景や事情があります。たとえケアの方法が古いもので効率も悪く、利用者や職員の負担が大きくても、支援者は否定することなく合わせることが基本となります。

〈まとめ〉
今回は玉突き支援についてお伝えしました。実際の支援では、支援先は人的にも厳しく、また混乱している場合が多く、手順通り進めることができないことが殆どであり、支援者が側が少ない情報を基に先回りして手を打つ形になることが多いです。
この記事を書いている3月末現在も、第4波の警戒が高まっています。ワクチン接種等による収束までは、まだまだ時間がかかるでしょう。本稿を参考に、クラスターが発生した場合の受け入れの体制と玉突き支援の用意を進めて頂ければ幸いです。 |