はじめに
2020年6月5日、通常国会で「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」(以下、改正社会福祉法)が可決成立した。この改正社会福祉法には医療・介護データ基盤の整備推進や介護人材確保、社会福祉連携推進法人制度の創設などが盛り込まれている。今回はこの中でも社会福祉連携推進法人(以下、連携法人)について振り返ってみよう。連携法人は地域医療連携推進法人の社会福祉法人版とも言え、今後の社会福祉法人の大規模化の手法の一つとして期待されている。
1.社会福祉法人を取り巻く環境
そもそも社会福祉法人は社会福祉法の定めに従って社会福祉事業を行うことを目的として設立される公益法人だ。社会福祉事業としては児童福祉施設(保育園)、高齢者福祉事業、障害者事業などがある。社会福祉法人は法人税上では公益法人等であるため、一部を除き非課税の優遇措置があり、非営利とみなされた事業には法人税や消費税、固定資産税が原則免除される。特別養護老人ホーム(特養)などの入所系の福祉施設は第1種社会福祉事業とされ、その経営主体は社会福祉法人と自治体の占有事業である。第2種事業は訪問介護やデイサービスなど在宅系サービスで、こちらは株式会社やNPO法人なども参入可能だ。
社会福祉法人は2018年現在、全国に20,912であり、そのサービス活動収益規模は、1億~2億円(26.7%)が最も多く、次いで1億未満(14.8%)、2~3億円(13.2%)と続いている。平均は約5億円であり、10億円以上の法人は約1割(11.1%)、50 億円以上の法人は0.6%に過ぎず、圧倒的に中小規模の法人が多い。またサービス活動の収益から費用を引いた差額をサービス活動収益で除した「サービス活動増減差額率」は、平均値は2.31%、中央値は1.66%であり、「0」未満の法人は全体の38.4%と4割近くにも上っている。
2.増える社会福祉法人の経営破綻
こうした経営環境の中で最近、介護事業環境の悪化に伴い、社会福祉法人でも破綻するところが出始めている。2018年12月には神奈川県で高齢者介護施設などを運営する社会福祉法人「大磯恒道会」(神奈川県大磯町)が、東京地裁に破産を申し立て、業界に衝撃が広がった。負債額は6億4400万円だった。
2019年10月には、静岡市で愛知県に法人本部がある社会福祉法人ライトが経営する3カ所の特養が経営破綻し、合わせて133人の入居者が同市内外の61の特養や老人保健施設に転居を余儀なくさせられた。破綻の原因は「辞めた多くの職員の補充が追い付かないため、必要な職員配置ができなくなった。そのため入居者数を減らし、収支の悪化を招いた」とのことだ。
東京商工リサーチの調べによると、2019年の「老人福祉・介護事業」倒産が111件で、2016年の108件から4年連続の100件台と倒産が高止まりしている(図表1)。背景に介護の人手不足と人件費の上昇がある。特に、ヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産が急増し、倒産件数を押し上げている。社会福祉法人は先述のように全国で約2万法人あるが、うち加入職員が100人未満のいわゆる小規模法人が約9割を占めていて、その規模の法人の倒産が増えている。

3.社会福祉法人の大規模化~連携によるグループ化~
こうした小規模事業所の多い社会福祉法人について、その大規模化や複数法人のグループ化が経営の合理化、安定化には欠かせない。そのような社会福祉法人の大規模化、グループ化についての指摘を行ったのは、2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書で、そこでは以下のように述べられている。「社会福祉法人については、経営の合理化、近代化が必要であり、大規模化や複数法人の連携を推進していく必要がある。また、非課税扱いとされているにふさわしい、国家や地域への貢献が求められており、低所得者の住まいや生活支援などに積極的に取り組んでいくことが求められている」。
ではまず社会福祉法人の複数法人による連携、社会福祉法人のグループ化について事例を見ていこう。グループ化で成功した事例が京都にある。京都市内の3法人が協力して「グループ・リガーレ」を2010年に結成したが、その後構成法人は7法人に増え、12年に本部を兼ねる地域密着型総合ケアセンター「きたおおじ」を大徳寺の隣接地に建てた。7法人による連携及び共同事業としては、1つの法人では困難な課題に挑むこととして、以下のような事業を行った。①介護サービスの質の標準化、②介護人材の確保・育成、③経営管理機能の強化、である。①については本部からの各法人への定期的なスーパーバイザーの巡回訪問によるサービスの質の標準化、②は研修や採用活動の共同化で、将来的には法人化の人事異動など、③は老朽化施設の改修や地域展開への経営戦略支援などであった(図表2)。
グループ本部を兼ねている「きたおおじ」を運営する社会福祉法人「リガーレ暮らしの架け橋」の理事長の山田尋志氏はグループ化を呼びかけたリーダーでもある。氏は、「住民のために地域密着特養や小規模多機能型居宅介護を作ろうとしたが、開発人材に乏しい中小法人では難しいので、グループを結成し、経験のある法人がサポートする形を目指した。そこで人材が定着する組織風土やケアの質を標準化する仕組みの共有が最大の課題と考え、採用や研修に力を入れ出した」と述べている。だが一方、本部機能を持つ「きたおおじ」の建設、運営については社会福祉法人の限界を感じたという。各法人からの資金拠出による新法人設立を考えたが、各社会福祉法人が資金を外部に持ち出せないという制度の壁に突き当たったという。このためやむなくグループ内の一法人の施設という形を採らざるを得なかった。

こうしたグループ化の例としては、この他にもいくつかある。たとえば山形市内の特養19法人の施設長連絡会が運営する協同事業の例である。この協同事業では、福祉避難所として既に指定されている介護施設がその知見を活かして、これから指定を受けようとしている施設への助言や支援を行うことや、引きこもりや障がい者、刑務所出所者対象の介護施設体験や就労支援の場の提供、買い物難民の高齢者用の送迎バスの運営などを協同で行っている。
4.社会福祉協議会による連携グループ化
社会福祉協議会が仲立ちに入りグループ化した例もある。兵庫県の加西市社会福祉協議会が運営するグループ事業がそれで、その例として、災害時の市区町域内での福祉関係者による災害ネットワーク事業を行っている。災害時には事業の継続運営のみならず、要援護者への緊急的な対応が必要となってくる。また要援護者のみならず、一般市民も福祉施設に避難してくることが想定される。こうした災害時の社会福祉法人の施設の福祉避難所としての合同演習を実施し災害時の対応を目指している。
こうしたネットワークは平時には、児童、障害、高齢者を対象とした各分野の福祉法人ネットワークであることを活かして、包括的なワンストップ相談支援拠点の設置を目指し、その第一歩として健康福祉祭りや福祉フェスタなどのイベントを行っている。また地域共生社会について地域住民との学びの場として講演会の開設や実践の場と「みんなで晩ごはん事業」などで子供や高齢者の孤食防止を行っている。
佐賀県の多久市社会福祉協議会では、社会福祉法人の連携による相談支援を行っている。困難事例に対して、救護施設、特養、障がい者施設等法人から職員を派遣してもらい、法人間ネットワークを形成し、関係機関を巻き込みながら相談支援を行っている。また既存の制度では対応できない支援・サービス、たとえば生活困窮者に対する援助事業や、福祉教育、福祉人材の育成事業、福祉イベントの開催、就労体験の場の提供など社会参加への応援事業も行っている。
5.社会福祉法人の合併・事業譲渡
さて社会福祉法人の大規模化には合併・事業譲渡も含まれる。国は介護保険制度のスタート以来、社会福祉法人の合併・事業譲渡にも旗も振ってきた。ただ合併はこの10年間で年間10件から20件の間を推移していてあまり増えてはいない。合併の理由は業績不振法人の救済が最も多く、合併によって消滅した法人の収益規模は9割以上が5億円未満の小規模事業者だった。そのほかの合併理由としては人的資源の効率化・合理化が理由として挙げられている。
経営難や人材不足で社会福祉法人の合併ニーズが高まっている。このため合併手続きの環境を整えるため、国は2016年の社会福祉法人制度改革の際に、一般社団法人を参考に合併に関する規定の整備も行った。にもかかわらず合併件数がそれほど伸びていない。その理由としては、合併・事業譲渡には相当の資金が必要であること、法人間の歴史や理念の違いから合併合意を得るのが簡単でないこと、合併手続きの煩雑さや所轄庁が合併・事業譲渡に慣れていないことなどが挙げられた。
また最近では2020年7月15日、厚生労働省は、取りまとめた「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」の案の中で、合併・事業譲渡等の手続きと留意点について述べている。合併における留意点として、当事者法人の十分な協議、当事者間の適切な合意形成を挙げた。事業譲渡等についても、「事業の譲渡は、利用者へのサービス提供継続に資するために実施するもの」とし、譲渡先法人の事業実施可能性等に関する事業所管行政庁との事前協議の実施などを挙げている。
6.社会福祉連携推進法人
こうした中、社会福祉法人の複数法人のグループ化と合併・事業譲渡以外の中間的な選択肢として、今回の主題の「社会福祉連携推進法人制度」(以下、連携法人)の検討が始まった。
厚生労働省は2019年12月に「社会福祉法人の事業展開等に関する検討会」(座長=田中滋・埼玉県立大理事長)で連携法人の検討を行い、報告書を示した。この報告書が今回の改正社会福祉法の連携法人に連なる。
報告書では、今後の社会福祉法人の連携・協働化の手法を、①社会福祉協議会や法人間の連携、②社会福祉法人を中核とする連携法人(連携法人)、③合併・事業譲渡の3パターンに整理した(図表3)。社会福祉連携推進法人は社会福祉協議会や法人間の連携と合併・事業譲渡の中間型としての位置づけだ。卑近なたとえでは①は法人の同棲、③は法人の結婚だとすれば、②の連携法人は同棲以上、結婚以下の関係といえるだろう。

では具体的に社会福祉連携推進法人について見ていこう。連携法人の法人格は一般社団法人で、所轄庁が認定する。連携法人には社会福祉法人や自治体、医療・公益・NPO法人なども参加が可能である。その議決権の過半数は社会福祉法人が占める。
そして連携法人が担う業務は以下の5項目だ。①地域共生社会実現に向けた連携、②災害対応に係る連携、③福祉人材確保・育成、④生産性向上のための共同購入など社会福祉事業の経営に係る支援、⑤社会福祉法人への貸付、である。
これまで社会福祉法人間の連携方策は、社会福祉協議会や法人間の緩やかな連携と合併、事業譲渡の二つの選択肢しかなかった。これが第三の選択肢としての社会福祉連携推進法人の創設により、社会福祉法人それぞれの自主性を確保しつつ、良質な福祉サービスの提供と法人の経営基盤の強化に向けた連携を促進することが期待されている。
特に注目されるのは、⑤の資金貸付だ。これまで社会福祉法人は先述のように、収益の法人外支出が禁止されていた。これに対して、連携法人内では資金として貸付をすることを可能とした。法人間の資金貸付は連携法人を介して行い、その内容については所轄庁が認定する。ただ社会福祉法人が貸し付けできる額は本部経費の範囲内とし、集まった資金は他の資金と分けて管理し、貸し付け以外の使用を禁止する。貸し付けを受ける社会福祉法人は、自法人への貸し付けについて議決権はなく、議決は他の理事にゆだねることになる。

7.社会福祉連携法人に対する意見と今後の期待
検討会では以下のような意見も出された。まず全国社会福祉法人経営者協議会の宮田裕司氏は「社会福祉法人の経営基盤の強化に向けた選択肢の一つとして、連携法人が提案されたことはおおむね良い。まずは社会福祉協議会を中心にした連携が重要。その上で必要があれば、連携法人の活用、事業譲渡や法人合併という順番で検討すべきだ」と述べた。
またキヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘氏は「連携法人は、好事例が出てくれば広がるのではないか。初めから完璧なものはつくれない。貸し付けの自由度を高めることを含め、見直していけばよい。社会福祉法人は、地域包括ケアにおける生活支援を担い、存在意義を示してほしい」、日本福祉大学の原田正樹氏は「連携ありきではない。大事なのは、社会福祉協議会や社会福祉法人が自発的に参画し、どんな重層的なセーフティネットをつくっていくかを構想することだ」とそれぞれ述べている。
さて医療分野では、2015年に改正医療法で、医療版の連携法人である「地域医療連携推進法人」が制度化され、2017年4月から実際にスタートして、すでに17法人が立ち挙がっている。その代表格である日本海ヘルスケアネットについては、以前紹介したが、今回の社会福祉連携推進法人との比較のためにもう一度見てみよう。
2018年4月、日本海総合病院を運営する山形県・酒田市病院機構など、酒田地区で医療や介護、福祉に携わる9法人が「日本海ヘルスケアネット」を発足させた。設立の趣旨は、急速に進む少子高齢化と人口減少に対し、各法人が連携したり機能を分担したりして、医療や福祉を安定的に提供することであった。
参加する9法人は、酒田地区の医師会、歯科医師会、薬剤師会のほか、酒田市内の民間病院や特別養護老人ホームや介護施設などを運営する法人である。総ベッド数は1200床近くに上る。連携区域は庄内地方全域で、すでに法人化する前から、日本海総合病院(646床)と本間病院(154床)は、当直医を派遣したり、手術の集約化をしたりする実質的な連携が始まっていた。
今後、透析機能などの病院機能の集中化や、病床融通、在籍出向による人材融通や、資金貸付、医療機器の共同利用化や、推奨医薬品リスト(フォーミュラリー)による医薬品使用の適正化を図っていくという。また、退院後もスムーズにケアが受けられるよう、在宅医療機関や介護事業所との情報共有をさらに進めて地域包括ケアシステムの構築を目指すとのことである。
酒田市病院機構の栗谷義樹理事長は「地域で医療や介護サービスを継続して受けられる基盤づくりができた」と話している。このような医療版の連携推進法人は地域の特性に応じて今後、人口減が急速に進む地方を中心として増加の一途をたどることだろう。
おわりに
社会福祉連携推進法人について、その経緯も含めて見てきた。今回の連携法人はまだまだその活動内容が分かりにくく、全国的に周知されているとは言い難い。ただ前述の医療版の連携法人も、今でこそ次第に普及してきているが、スタート当初はその必要性を疑問視する声もあった。それが普及した背景には、特に人口減の著しい地方において、同じような機能をもつ医療機関がお互い患者や人材を奪いあっていればいずれ共倒れという危機感があった。社会福祉法人でも事情は同じだろう。まずは地域における現状の事例を積み上げて、「参加することのメリットを分かり易く周知すること」が必要だろう。連携法人の発足は「公布後2年以内」とされるが、今からでもその発足へ向けての検討を始めてみてはどうだろう。
参考文献
厚生労働省 社会福祉法人の事業展開等に関する検討会報告書(2019年12月13日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08411.html
厚生労働省 第25 回社会保障審議会福祉部会 社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン(案)(2020年7月15日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000648684.pdf |