リスクマネジメント


【第2回】 「低栄養のリスクマネジメント」
 Q1.「低栄養」とは、どのような状態を指しますか。

○身体を維持するのに必要なエネルギーやたんぱく質などの栄養素が
 不足した状態のことをいいます。

 低栄養は、体重減少や筋肉量の低下、筋力の低下、精神活動の低下、易感染性や浮腫などを引き起こします。低栄養の原因には、次の 3 つがあると言われています1)

①急性疾患に関連するもの
 肺炎などの急性疾患に関連した低栄養の場合、CRP(C-Reactive Protein)の急激な 上昇がみられることがあります。こうしたケースは、侵襲よる低栄養ととらえるとわかりやすいです。

②慢性疾患に関連するもの
 慢性炎症に関連する低栄養は、がんや COPD、心不全など、慢性的な炎症が生じた状態が原因となります。これは、基礎疾患に関連する複合的な代謝異常の症候群である悪液質による低栄養ととらえるとわかりやすいです。

③社会生活環境に関連するもの
 社会生活環境に関連する低栄養は、摂取エネルギー量が必要エネルギー量を下回る飢餓による低栄養ととらえるとわかりやすいです。

〈GLIM基準〉

 GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準は、2018年に世界の臨床栄養学会により合同で発表された低栄養の診断基準です。GLIM基準による低栄養の診断には、現症の3項目と病因の2項目が用いられます。


 また、低栄養の重症度は、現症の3項目から中等度と重度の2段階で判定します。そして、GLIM基準では低栄養を病因にしたがって、次の4つに分類しています。

①急性疾患あるいは外傷による高度の炎症のある低栄養
②慢性疾患で炎症のある低栄養
③炎症はわずか、かない状態の慢性疾患による低栄養
④飢餓による低栄養

〈診断の流れ〉

 GILM基準による低栄養の診断は、①低栄養のスクリーニング、②(スクリーニングで陽性の場合)アセスメント実施、③診断、④重症度判定という流れになります(図1)。  

 現症と病因、重症度判断の詳細は他書にゆずりますが、現場でまず実施すべきは診断の第一歩である「スクリーニング検査」ですので、これについて解説します。

〈栄養のスクリーニング検査〉

 スクリーニング検査には、信頼性・妥当性の検証された検査法を用いる必要があります。ここでは、ヨーロッパ臨床栄養代謝学会が推奨している「MUST」「NRS2002」「MNA-SF」の3つを紹介します。

■MUST(Malnutrition Universal Screening Tool):在宅の方向け
 英国静脈経腸栄養学会により開発された栄養スクリーニング法です3)。そもそも在宅患者向けの使用が想定されていましたが、近年では病院でも使用されています。BMI・体重減少・急性疾患かつ栄養摂取不足,の3項目の合計スコアにより低・中・高のリスク判定を行います。

■NRS2002(Nutritional Risk Screening):入院中の方向け
 ヨーロッパ臨床栄養代謝学会から発表された,主に急性期向けの栄養スクリーニング法です4)。BMI、体重減少、食事摂取量低下、重症疾患の有無の4項目からなる初期スクリーニングと、栄養障害スコア、疾患重症度スコア、加齢によるスコアからなる最終スクリーニングが含まれています。

■MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form):高齢者向け
 高齢者に特化した栄養スクリーニング法です。MNA-SF は、MNA(Mini Nutritional Assessment5)という高齢者向けのスクリーニングツールの評価項目を6個に絞り込んだ簡易版になります。評価用紙は、https://www.mna-elderly.com/forms/mini/mna_mini_japanese.pdf より入手できます。

 MNA-SFは「食事摂取量の変化」「体重変化」「歩行」「ストレス」「精神心理学的問題」「BMI」の6項目から構成され、その合計点数により「栄養状態良好」「低栄養の恐れあり」「低栄養」のいずれに該当するかを判定します。

 なお、BMIが不明の場合は下腿周囲長を用いて判定します。評価が容易な事や、MNAの評価結果と予後に関連性が認められているため、在宅高齢者の他、病院でも広く使われています。介護施設で使いやすいツールと思われます。

 Q2.どのような対象者が低栄養になりやすいですか。

○老年症候群と低栄養の関連が指摘されています

 介護施設におけるMNA-SFによる調査では、「低栄養の恐れあり」は57.4% で、「低栄養」は25.7% と報告されています6)。この報告では、老年症候群(視機能低下、聴覚障害、転倒、排泄障害、認知障害、歩行困難身、嚥下障害、食欲不振)の数の多さと低栄養が関連していたとされています。

〈低栄養の原因〉

 前述したように、低栄養の原因には急性炎症や慢性炎症、飢餓に関連するものがあります。

 急性疾患のある場合は、まず疾患の治療が優先です。そして、慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性炎症を引き起こす疾患のある利用者は、低栄養のリスクを考慮しながらケアする必要があります。

 また、飢餓は摂取エネルギー量の低下により引き起こされます。摂取エネルギーの低下の要因は種々ありますが、表1に主なものを示します。

 Q2.どのようにして栄養サポートをしたらよいでしょうか。

○栄養ケア・マネジメントのサイクルを回しましょう

 介護保険施設では、栄養マネジメント加算、低栄養リスク改善加算、経口移行加算、経口維持加算などで低栄養に対する取り組みが評価されています。

 また、栄養ケア・マネジメントの考え方では、栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケア計画、実施、モニタリング、評価といったサイクルを回す事を推奨しています8)。この栄養ケア・マネジメントの根幹の考え方を述べた杉山氏による報告を以下に紹介します。

"従来、わが国における高齢者の栄養問題への取り組みは、「栄養食事指導」の名のもとに、生活習慣病の予防及び疾病の重症化予防を主な目的として、過剰な栄養状態への対応、すなわち「食事」を制限する指導になりがちであった。その結果、明らかに虚弱な痩せた高齢者が、食べ過ぎを心配する場合や、食欲が低下している者に対して過剰な減塩指導が行われ、喫食量が減るなどの場合もあった。一方、「介護予防」の観点から取り組まれる本サービス等は、人間の基本的欲求である「食べる楽しみ」を重視し、「食べること」によって低栄養状態を予防・改善し、高齢者の身体機能・生活機能・免疫能を維持・向上させ、QOLの維持・向上に資するものであり、高齢者が自己実現のできる喜びを味わえるよう「食べることを支援する」ことを目的として行う点で、従来の「栄養食事指導」とは一線を画していることに留意すべきである。"

 

〈リハ栄養ケアプロセス〉

 さらに、低栄養の原因を明らかにし、原因に応じたマネジメントを行い、リハビリテーション栄養の視点からADL、QOLの改善を志向するリハ栄養ケアプロセス8)が2017年に発表されました。

 リハ栄養ケアプロセスでは、まず「リハ栄養診断」で状態と原因を診断します。

〈リハ栄養診断〉

 リハ栄養診断では、低栄養や過栄養の有無とその原因、サルコペニアの有無とその原因、悪液質の有無とその原因、栄養素摂取の過不足とその原因を評価し、予後予測と具体的な目標設定します。

〈多職種の介入〉

 リハ栄養ケアプロセスでは、リハから見た栄養(例:これぐらい動きたいから○○kcal/day追加して欲しい)、栄養から見たリハ(例:栄養状態が悪いから今は負荷を控えめにして、栄養状態が改善したら負荷を増やしてほしい)という2つの視点で介入しADL、QOLの維持改善を図ります。

 そして、介入後は、モニタリングし再度アセスメントする・・・という流れが推奨されています(図2)。


 低栄養は、対象者のADLやQOLに深刻な影響を及ぼします。低栄養の予防や、低栄養の対象者への対応がとても重要です。また、一職種ではとてもできるものではありませんので複数の職種で話し合いながら評価と対応を行ってください。

1. White JV, Guenter P, Jensen G, et al. Academy Malnutrition Work Group; A.S.P.E.N. Malnutrition Task Force; A.S.P.E.N. Board of Directors. Consensus statement: Academy of Nutrition and Dietetics and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: characteristics recommended for the identification and documentation of adult malnutrition (undernutrition). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2012; 36: 275−83
2. T. Cederholm, G.L. Jensen, M.I.T.D. Correia,et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community, Clinical Nutrition, 2019-02-01, 38,(1), 1-9.
3. Malnutrition Action Group (MAG) (a standing committee of the British Association for Parenteral and Enteral Nutrition):The" MUST" explanatory booklet. http://www.bapen.org.uk/pdfs/must/must_explan.pd
4. Kondrup J, et al:Nutritional risk screening (NRS 2002): a new method based on an analysis of controlled clinical trials. Clin Nutr, 22:321-336, 2003
5. Guigoz Y:The Mini Nutritional Assessment (MNA) review of the literature--What does it tell us? J Nutr Health Aging, 10:466-485; discussion 485-487, 2006
6. Hirose T, et al : Accumulation of geriatric conditions is associated with poor nutritional status in dependent older people living in the community and in nursing homes. Geriatr Gerontol Int 2014; 14: 198–205.
7. 杉山みち子: 栄養改善マニュアル(改訂版). https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1e.pdf (2020.12.20.閲覧)
8. Wakabayashi H: Rehabilitation nutrition in general and family medicine. J Gen Fam Med. 2017;18:153–154.