1.はじめに
介護事業所に於ける介護リーダーは、その役割によって介護部長のような全体をまとめるトップリーダーと、フロアーリーダーのような中間管理を行うミドルリーダーと、ユニットリーダーのような現場を指揮するロワーリーダーとに分けられる。
介護リーダーに与えらる使命は、どのリーダーに於いても、CS(顧客の満足)、ES(従業者満足)、OS(組織満足)の3つの満足を充たすよう、それぞれの目標を立て業務を遂行することである。
そして介護リーダーがこの業務を遂行するに当たっては、3つの満足目標が達成できるよう、3つのスキルが必要となってくる。
3つのスキルとは、遂行してゆく道筋を示すことが出来る概念化能力(コンセプチュアルスキル)と、3つの目標を達成するためスタッフを束ね、職務を全うするよう人間関係を整えることが出来る人間関係処理能力(ヒューマンスキル)と、3つの目標を達成するための業務を遂行できる業務遂行能力(テクニカルスキル)である。
今回から3回に渡り、この3つのスキルを1つずつ細かく述べてゆく事にする。
今回はこの業務を遂行するに当たって、遂行してゆく道筋を示すことが出来る概念化能力(以下コンセプチュアルスキル)について述べてゆく(表1参照)。

2.スキルの各リーダーに於ける範囲と割合
コンセプチュアルスキルは、介護部門に於いては介護のトップリーダーに一番比重がかかるタスクで、現場に近づくリーダー程そのタスクが小さくなる。(図1参照)

3.コンセプチュアルスキルの実際
1)CS(顧客満足)に於けるコンセプチュアルスキル
CSに於けるコンセプチュアルスキルは、オープン時からハード・ソフト・ヒューマンウエアサービスそれぞれの事業所計画を立案し、それを法人としての運営計画・契約書、更には個別のケアプランにまで落とし込み、以後計画単位毎に利用者・家族の意向を傾聴しながら、状態に応じて調整してゆく能力である。
CSに於けるコンセプチュアルスキルの基本は、トップリーダーの事業所計画然りロアーリーダーのケアプラン然り、如何に具体的に利用者視点に立てるかという事である。
この連載では介護リーダーの役割を述べているので、ここではより具体的なケアプランではなく、サービスに焦点を当てた事業所計画について述べてゆく。
例えば事業所のサービス計画とは、介護施設入居者や介護サービス利用者並びに介護職員に対してモニタリング等を行い(表2参照)、意見を集約してトップマネジメントに相談、意見具申し業務改善すべき点があれば検討し年間計画として挙げてゆくなどがある。
ところが利用者や家族の意見を集約する事は手間暇が掛かる為、多くの介護事業所が介護職員の感覚や意見が集約されたものを利用者の意見としている場合が殆どで、利用者視点が見失われている場合が多い。また毎年社会も利用者も職員も変化するので、利用者視点を維持する為にも毎年定期的にサービスに関するモニタリングは行わねばならない。
しかし事業所開設当時から、建築・備品(ハードウエア)は設計士や建設会社などの専門家に任せ、運営計画・契約書(ソフトウエア)は厚生労働省の出しているひな形を模倣して作成し、従業者教育(ヒューマンウエア)は現場指導者の経験と感覚で行われているといった具合に、多くの介護事業所がCSの基本である利用者視点に立てていない為、どこかでその流れを断ち切らない限り、事業所主体の事実は否めない。
又介護施設に於けるケアプランは、ケアマネージャーが勝手に作成しモニタリングを知らぬ間に行い利用者から印鑑を戴いている介護施設も少なくなく、現場の介護職員はケアプランの内容すら知らずにただルーチンの業務をこなしているという施設も少なくない。
コンセプチュアルスキルはただ道筋を示すだけでなく、如何に具現化するかが重要なタスクである為、出来ていない事業所は気付いた時を起点として改善して戴きたい。

2)ES(従業者満足)に於けるコンセプチュアルスキル
ESに於けるコンセプチュアルスキルは、従業者の動因(ドライブ)、誘因(インセンティブ)、環境の3つの要素それぞれに対して働きかけ、やる気と動機付けを持たせられるよう、感情と知識と意識に関するフォロー、ルール作り等の支援計画を立案、実施、調整してゆく能力である。
ESに於けるコンセプチュアルスキルの基本は、それぞれ個々の従業者の個性を把握した上で、当該介護事業所に於けるCSならびにOSをきちんと理解してもらう事である。
ここで間違えてはいけないことは、従業者満足の基本は従業者が主体となり何でも従業者の言い成りとなる「規律なき自由」ではないという点である。かといって組織が主体となり法人の言いなりとなる「自由無き規律」が正しいと申し上げている訳でもない。
理想的なのは、ケアの原則と法人のルールに基づき就労する「規律の中の自由」の基、従業者を支える事が大切だという事である。
その事を理解した上で、トップリーダーは従業者の内面からのやる気を持たせられるよう、例えば①給与や賞与ならびに昇給や昇進を評価する評価制度を確立したり、②年間の研修計画を立案し、講師の依頼・勤務体制の調整を行い実施日程を計画したり、③資格取得支援制度の確立や講師を招いて資格取得のための勉強会を企画したり、④分化した委員会を設置し、従業者個々に活躍できる場を設けたりすること等が重要となってくる。
またルール解釈の基、育児休暇や介護休暇の取得支援を勧めたり、腰痛などの身体的疲労に向き合い有給休暇を積極的に消化させたり、時には勤務交代・出張命令等の指示を出すのもタスクの一部である。
更には従業者の個人的な悩みを傾聴し、例えば従業者が子供を預ける施設で悩んでいたら、保育園の情報提供を行ったり、必要とあらば法人独自の保育園の設立などをトップマネジメントに相談・意見具申することなども重要なタスクである。
その為には、①法律の把握や道徳心の向上、②社会情勢と今後の推測、③法人内外、法人内での良好な人間関係の構築、④介護職員の特性把握などが必要となってくる。
ミドルリーダーやロアーリーダーのコンセプチュアルスキルに関しては、より介護現場寄りのタスクとなる。
例えば①法人の定めた人事考課や考課査定に基づいた介護職員への直接指導や面談、介護従業者個々の目標設定の確立を行ったり、②プリセプターのOJTによる新人教育計画を企画したり、③利用者・家族ならびに介護職員の意見をまとめ、医療的支援・ADL(日常生活動作)・IADL(手段的日常生活動作)・AADL(拡大生活動作)の各項目に於ける年間・月間・週間・日課プログラムを工夫しスキームを構築したり、④介護従業者個々に合った各委員会の割り振りや、日々の業務の役割を創造すること等が重要となってくる。
これらのタスクを遂行する時、ミドルリーダーやロアーリーダーは、介護職員個々の様々な感情や意見に振り回されず、顧客満足というケアの原則と組織満足に於ける法人のルールに基づき任務を遂行する事が重要である。
その為には、①利用者個々の情報収集やケアプランの把握、②表2で示したような利用者のサービスに関する満足度の把握、③就業規則等法人の定める規則類の把握、④契約書・運営規定など、法人と利用者との契約事の把握、そして⑤介護従業者個々の特性や性格の把握が必要となる。
3)OS(組織満足)に於けるコンセプチュアルスキル
OSに於けるコンセプチュアルスキルの基本は、介護事業所のオープン時より長・中・短期に於ける財務・運営・人財(人事・労務)計画を策定し、以後計画単位毎に財務・運営・人財状態に応じて調整してゆく能力である。
財務はトップマネジメントに於いては、収支(損益計算書)、資産状況(貸借対照表)、キャッシュフローについての予算立案から経営管理まで、幅広いコンセプチュアルスキルを持ち合わせていなければならないが、介護のトップリーダーに於いては収支についてのコンセプチュアルスキルだけで十分である。
但し収支目標を部下に伝達する際は、具体的な運営目標に落とし込む事が必要となる。
ミドル・ロワーリーダーに至っては、財務計画によって落とし込まれた運営目標に対して、具体的な施策に於いてコンセプチュアルスキルを持てるようにする事が重要である。
例えば前年度の収入が低下した場合、その理由を分析し、転倒・転落による骨折で入院した利用者が多かったケースなら、トップリーダーに依る翌年度の介護職員の運営目標を「転倒・転落による骨折事故0件」としたり、逆に支出面で夏場の電気代利用料が例年と比べて頗る多かったケースなら、ミドルリーダーに依る翌年度の消費に於ける具体的な目標を「エアコンの使用は7月~9月、7時~20時までとし、27度設定とする」などと定める事である。
運営はCSが向上するよう、利用者・家族からの意見を充分聞き取り、絶えず利用者のQOL(生活の質)の向上、組織のサービス向上に努めることを基本とし、それらの具体策を構築することがコンセプチュアルスキルである。(CSの項参照)
同時に、転倒・転落、誤嚥・誤飲、介護ミス・虐待(身体拘束)、感染症(食中毒)などの介護事故を未然に防ぐよう、注意喚起を促し、ヒヤリハットを活用し、事故を未然に防ぐ対策を構築することや、医療や災害に於ける緊急体制を構築したり、避難計画を立案し訓練を整えたり、食料・飲料水・生活用品を備蓄・管理する事も重要なコンセプチュアルスキルである。
人財(人事・労務)は、ESが向上するよう、介護従業者からの意見を充分聞き取り、チーム並びにスタッフ個々の年間運営目標を設定してモチベーションを上げ、それを遂行してゆくよう具現化する事が基本となる。
今や「去る者追わず、来る者拒まず」といった、楽天的な高度成長期時代は過ぎ去っている。現在ならびに未来に於いては「去ろうとする者は止め、来るように整え迎える」時代である。
時はナショナリズムをかなぐり捨て、外国人介護労働者に支援を求めなければならないグローバリズムの時代なのである。
4.おわりに
日々社会も利用者も職員も事業所も変化する。
当然それらの変化に応じて概念もまた変化するため、コンセプチュアルスキルの在り方も変化してゆく。介護リーダーもまたそれらの変化に対応してゆかなければならない。
自然科学者ダーウィンの名言がある。
It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives.
(強いものが行き残るのではなく、賢いものが生き残るのでもない)
It is one that is most adaptable to change.
(生き残ることが出来るのは変化に対応するものである)
しかし「あそび(愛情・尊敬・美徳)心」という介護の本質は普遍的なものである。
よって介護リーダーは、あそび心の本質を変えることなく、時代の変化に対応しつつ、リーダー業務としてのコンセプチュアルスキルを磨いてゆく事が重要なのである。
年年歳歳【愛敬徳】相似、年年歳歳【社利職】不同
(唐詩選 年年歳歳花相似、年年歳歳人不同より)
参考文献:介護リーダー役割発揮のための基礎50 中央法規出版石郡英一
ISHIKORI METTOD(カンボジア日本技術大学介護教科書)
種の起源 光文社古典新訳文庫 渡辺政隆訳
細川景一著2000.11.禅文化研究所肝 |