1・はじめに
介護事業所に於ける介護リーダーは、その役割によって介護部長のような全体をまとめるトップリーダーと、フロアーリーダーのような中間管理を行うミドルリーダーと、ユニットリーダーのような現場を指揮するロワーリーダーとに分けられる。
介護リーダーに与えらる使命は、どのリーダーに於いても、CS(顧客の満足)、ES(従業者満足)、OS(組織満足)の3つの満足を充たすよう、それぞれの目標を立て業務を遂行することである。
そして介護リーダーがこの業務を遂行するに当たっては、3つの満足目標が達成できるよう、3つのスキルが必要となってくる。
3つのスキルとは、遂行してゆく道筋を示すことが出来る概念化能力(コンセプチュアルスキル)と、3つの目標を達成するためスタッフを束ね、職務を全うするよう人間関係を整えることが出来る人間関係処理能力(ヒューマンスキル)と、3つの目標を達成するための業務を遂行できる業務遂行能力(テクニカルスキル)である。
今回はこの業務を遂行出来る業務遂行能力(以下テクニカルスキル)について述べてゆく(表1参照)

2.テクニカルスキルの各リーダーに於ける範囲
テクニカルスキルは、介護部門に於いては介護のロアーリーダーに一番比重がかかるタスクで、トップリーダーに近づく程そのタスクが小さくなる。(図1参照)

3.テクニカルスキル(業務遂行能力)の実際
1)CS(顧客の満足)に於けるテクニカルスキル
起床時の排泄、洗顔、口腔ケアなどのモーニングケア、食事介助、入浴介助、排泄介助といったADL(日常生活動作)の支援(生活のケア)や、買い物、外出といったIADL(手段的日常生活動作)の支援(生活のケア)、あるいはレクリェーション、人間関係の調整といったAADL(拡大日常生活動作) の支援(人生のケア)、さらには検温・血圧・SPO2などのバイタルサインズ測定、与薬などの健康管理の支援、感染防止対策(生命のケア)といった直接介助から、記録、申し送り、会議などの間接介助に至るまで、介護現場に於ける介護スタッフの仕事は多岐に渡る。(QOL向上業務簡易表 表2参照)
しかし介護リーダーの真のCSに於けるテクニカルスキルは、これら介護スタッフの行う業務を介護スタッフと同じように行う事ではなく、これらの業務をチームとしてまとめてゆく事にある。
ロワーリーダーのCSに於けるテクニカルスキルで特に重要なのが、ケアプランに基づくQOL(生命のケア・生活のケア・人生のケア)の向上支援と、OJT(On the job training…一緒に働きながら教育する)等によって教育・実施することである。
ケアプランについて述べると、居宅系の介護事業所はケアプランが大前提であるのに対し、施設系の介護事業所はケアプランが軽視されている事実は否めない。多くの施設系の介護事業所はケアプランより、施設の業務マニュアルに基づき、機能別かつ画一的介護を実施している傾向にあると言って過言ない。
介護とは、当該対象者個人の24時間の生活過程を、身体的・精神的・社会的にwell being(良好)な状態に整える事である。
故に全てのケアは個別のケアプランに基づかれなければならず、利用者が10人居たら10通りのケアを提供する必要がある。ロワーリーダーはこの根本的概念を理解した上で、チームケアをまとめなければならない。ケアプランの浸透していないケアは正に画竜点睛を欠くものである。
OJTによって教育・実施する場合は「まずやってみせ、解いて聞かせて、させてみて、褒める事」が重要である(第1回介護リーダーの役割参照)。この際の技術的指導は、当該利用者のケアプランに基づいた身体的・精神的・社会的な個別のケア方式が行われるように、統一しなければならない。
またカンファレンス等の現場会議に於いては、利用者の直接介護が減らないよう、予め話し合う内容・主旨を明確にして、短時間で終わるようにしなければならない。その為には議事進行マニュアルを作成しておくとよい。
ミドルリーダーに於いては、ケアプランに基づきQOL(生命のケア・生活のケア・人生のケア)の充実支援がなされているかをラウンドし、監督指導を行う事がCSに於けるテクニカルスキルである。
またミドルリーダーは業務改善委員会のリーダーとして業務改善を促したり、ケアプラン作成時の担当者会議等に参加する事も重要な役割で、勿論それを現場のロワーリーダー、介護スタッフに伝達する事が最も重要なタスクである。

トップリーダーに於いては身体的安楽・安全、自立、精神的充実、安価、社会参加への働きかけ等、直接介護というより間接介護支援がCSに於けるテクニカルスキルとなる。
身体的安楽・安全とは、例えばコロナウイルス対策に於いては、病原体の除去(消毒液の発注・設置、手洗い・消毒の監督指示等)、感染経路の遮断(マスク・手袋・ガウン・フェースシールド等の発注、対人距離間隔・換気指導、面会・外出禁止等)、宿主の免疫力向上(食事・運動・休息の指導等)など、感染症の防止対策を計画・監督指示したりする事である。
精神的充実とはタイヤ(楽しみ・居場所・役割)の充実に他ならない(第2回介護リーダーの使命参照)。利用者の楽しみ支援では、近隣の幼稚園児の来所を交渉したり、年間行事の委員長として全体をまとめたり、居場所作りでは家族懇談会を開催して、利用者と家族とをつないだり、役割支援としては地域営業を行い、利用者が戦争体験の語り部として小学校に話しに行くなど、事業所と地域の交流の懸け橋となったりすることである。
2)ES(従業者の満足)に於けるテクニカルスキル
ロワーリーダー並びにミドルリーダーのESに於けるテクニカルスキルは、勤怠管理、勤務管理、スタッフの健康管理等が主体となる。
勤怠管理で心掛けなければならない事は、介護スタッフの遅刻、早退、欠勤、勤務交代を無くすことである。特に当日欠勤や勤務交代は、業務を変わって引き受けるスタッフの精神的・身体的負担となり易い。その為勤怠管理に於いては、勤務表作成や介護スタッフの心身の健康管理も同時に必要となってくる。
勤務表作成に関しては、①勤務表の均等割(休日・夜勤・早番・日勤・遅番回数等)、②ある程度の希望休の受入、③スタッフ間の質の均等(リーダーの配置、スタッフ間の相性等)、④特別日の調整(土日祝祭日、行事日等)、⑤早めの勤務表作成と提示などを考慮する事で、遅刻、早退、欠勤、勤務交代を減らすことが出来る。
介護スタッフの心身の健康管理の中でも、最も重要な事はスタッフ間の人間関係の構築である。人間関係の構築、つまり人間関係を円滑に回すためには、第1回の介護リーダーの役割でも述べたが、情の駒を回すことである。(第1回介護リーダーの役割図2参照)

人間関係で一番重いものは情である。しかし感情的に指導したり、好き嫌いで判断したり、重い情を底にして人間関係を回そうとしても人間関係は回らない。
しかし、強い意志を軸とし、知識に支えられた情の駒は見事に回る。具体的に言えば、リーダーはスタッフの間では常に中立な立場で感情的にならないことが大切で、あそび(あ・・愛情、そ・・尊敬、び・・美徳)心を持ってスタッフの話を傾聴し、時に指導する機会が生じれば、善口理諭(ぜんこうりゆ)(悪口・陰口を言わず理で諭す)、叱個褒全(しっこほぜん)(個別に叱り全体の前で褒める)の姿勢を取る事が重要である。
身体の健康管理で特に気を付ける必要があるのが、感染予防と腰痛管理である。
特にコロナウイルス対策に於いては、病原体の除去(必要箇所への消毒、手洗い・消毒、温度・湿度の調整等)、感染経路の遮断(マスク・手袋・ガウン・フェースシールド等の着用、使用後の洗濯、対人距離間隔、換気、外出・面会者の中止等)、宿主の免疫力向上(食事・運動・休息のケア等)などを徹底する事である。
勤務管理に於いては、タイムマネジメントを行う事が重要となる。
介護技術の評価の多くは業務の「質の評価」を問うものが多いが、タイムマネジメントとは、介護技術ではあまり取り上げられることの少ない業務の「量の評価」である。
例えば施設介護での入浴ケアを例に挙げてみる。仮に入浴介助の質の評価を2点満点で「丁寧2点、普通1点、雑0点」として、入浴介助に掛かる介助者一人当たりの所要時間(量)の評価を「15分2点、17分1点、20分0点」とする。
質の評価はここではさて置き、量の評価のみを取り上げてみて、仮に15分で行うスタッフをAさん(2点)、17分で行うスタッフをBさん(1点)、20分で行うスタッフをCさん(0点)とすると、2時間(120分)で、Aさんは8人、Bさんは7人、Cさんは6人の介助が出来るという事になる。
ここに質の評価を仮にAさん(雑)0点、Bさん(普通)1点、Cさん(丁寧)2点とした場合、Aさん、Bさん、Cさん共に合計2点ということになるが、例えば2時間で8人を入浴介助する決まりとした場合、評価点数は同じなのに、Aさんより手の遅いBさんには17分の残業代、Cさんには40分の残業代が生じることになってしまう。
この場合一番良いのは丁寧で手早い4点という事になるので、Aさんには質を上げる教育を、Bさんには全体的にレベルを上げる教育を、Cさんには段取りと手際を良くする教育を個別に行うようにし、全員が4点を目指さなければなければならない。
パートタイム勤務の場合、まさに時間で給料が発生するが、仕事の質のみならず、量で評価する基準を設けておかなければ、公平な勤務管理が出来ているとは言えない。
また介護の人員不足に悩む場合は、決められた業務内容を減らす、もしくは中止する判断もリーダーの役割である。例えば職員のレベルの平均値を業務量に換算し、業務内容を簡略化するのである。(表3~表6参照)
例えばリーダーAからHまでの8名で勤務する某ユニットケアの勤務について考えてみる。某月2日の午前中の総労働時間は660分あるのに対して、6日はAさんが休暇を取得しているので、420分しかない。240分少ない中で、660分分の業務をこなすのは困難な事である。結果、残業をすることになる。しかし前述した通り、量がこなせない職員が残業すると、通常よりさらに負担が増すことになる。




そこで、表6に示すように入浴者を1名とし、バイタル測定も入浴者1名のみとするようスタッフに指示するのである。勿論入浴予定だった利用者に対しては、代替日を土曜日に設けるなどしてサービスの質を落とさないようにする事が大切である。
このようなタイムマネジメントは、ミドル・ロワーリーダーに必要不可欠なテクニカルスキルである。
トップリーダーに於いては、業務マニュアルの作成、介護技術・接遇技術の向上のための研修企画ならびに実施、各種委員会の設置、キャリアアップ制度の確立と充実などがテクニカルスキルとして求められる。
また、災害対策ならびにパンデミックを起こすような感染症(新型コロナウイルス)対策の場合は、施設崩壊を阻止すべく、BCP(Business Continuity Plan…事業継続計画)作成も行わなければならない。
この場合特に、災害発生時の対応手順や職員体制のシュミレーション、職員の倫理教育などを作成・監督指示しなければならない。
3)OS(組織の満足)に於けるテクニカルスキル
ロワーリーダー並びにミドルリーダーのOSに於けるテクニカルスキルは、業務管理・記録物・物品管理、人事考課、感染防止対策、会議管理、ベッドコントロール等が主体となる。
トップリーダーのOSに於けるテクニカルスキルは、労務管理、サービス調整、人事・業務・物品管理、ベッドコントロール、会議管理等が主体となる。
この中でも特に重要なテクニカルスキルの一つにベッドコントロールがある。ベッドコントロールは経営の根幹となるもので、ロワー・ミドル・トップリーダー全てのテクニカルスキルとして必要不可欠なものと云える。そこでここではベッドコントロールに絞って述べてゆこうと考える。
ベッドコントロールとは施設系の介護事業所に於いて、入居ベッドの空きを出来るだけ最小限にするよう、能動的に働きかけることである。
ベッドコントロールの要点は、入居、退所、入院・外泊、営業の5つである。
入居に関して一番重要な事は、入居者の選り好みをしないという事である。「吸痰をやらなければならない方は受けられません」「ターミナルケアの方は受けられません」「(入居の空きがあるのに)今の状態が一番やりやすいのでこれ以上は受けられません」などと現場が拒否すると、ベッドの空きはいつまで経っても解消できない。
これらを解消する為には、ロワー・ミドルリーダーによって医療依存度の高い高齢者のケアの内・外部研修、教育企画ならびに受け入れ実践を計画的に行う事、また「吸痰の方」ではなく「○○様」という人格(顔の見える)の受け入れ啓蒙や、「入居の受け入れは地域・社会でお困りの方への貢献」という啓蒙活動を行う必要がある。
退所に関しては、ターミナルケアを行っている場合は、終末期せん妄や死前喘鳴、尿閉、下顎呼吸などの生命兆候を介護スタッフにも学習させ、看取りがきちんとできるように教育・指導・実践を行い、自己都合による退所の場合は、退所する利用者が次の生活に困らないように手筈を整える必要がある。その中で、退所予測→退所手続き→退所→部屋の片付け→クリーニング→入居の段取りを手早く行えるようにする。
入院に関してはその原因を分析し、利用者の苦痛が最小限に抑えられるよう工夫しなければならない。転倒・転倒による骨折、感染症による肺炎、誤嚥による肺炎といった予測できる事故は、ヒヤリハットを分析し過去の事例から個別に現在の対応方法を導き出し、入院が極力生じないよう注意する。
外泊については、利用者本人の負担や家族の負担を考慮することを第一とし、その上でOSからの視点に於いても1泊2日が好ましい。
営業に関しては、渉外業務となるのでトップリーダーのテクニカルスキルと云える。居宅支援事業所や介護老人保健施設など地域の介護事業所への挨拶回りや、事業所連絡協議会など地域の集まりへの参加を行う事によって、地域の入居希望者の情報をキャッチし、スムーズな入居につなげてゆく必要がある。
ちなみに渉外の営業に於いては、大学・専門学校・高校等への挨拶回りは求人に於いても生かされるテクニカルスキルである。
営業で大切な事は、アイドマ(A…attention注目、I…interest興味、D…desire欲求、M…memory記憶、A…action行動)を上げてゆく事である。
4.おわりに
今回は介護リーダーに必要な能力として「業務遂行能力(テクニカルスキル)」と題して述べてきた。
テクニカルスキルと聞くと、現場の介護技術をイメージする介護リーダーも多くみえると思うが、実際の介護リーダーに於けるテクニカルスキルは違うことがご理解いただけただろうか?
これでコンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの3つのスキルを3回に渡って述べて来たので、リーダーに必要なスキルを大まかな流れとして捉えて戴けたのではないかと思っている。
参考文献:介護リーダー役割発揮のための基礎50 中央法規出版石郡英一
ISHIKORI METTOD(カンボジア日本技術大学介護教科書) |