施設マネジメント


【第1回:総論】 「外国人介護職員の日本語レベルと求められる配慮」

1.異国の介護現場で働く外国人への支援

 私が外国人介護職員とのコミュニケーションについて考えるきっかけとなったのは、「日本語がわかりやすい職員とわかりにくい職員がいる」という留学生の声でした。また、留学生のアルバイト就労を受け入れた介護施設の施設長からも、「留学生はあんなにがんばって、慣れない外国で働きながら日本語を勉強しているのに、『がんばれ』『勉強しろ』というだけは申し訳ない。日本人の私たちが何かできることはないのだろうか?」という意見も出ていました。

 賛育会(以下、当法人)では、法人として外国人介護職員の教育システムを試行錯誤している最中です。しかし、日本語初級者を介護施設で受け入れ、支援する中で、外国人が感じる「日本語の難しさ」がわかってきました。本稿ではその経験を基に、外国人介護職員とのコミュニケーションを円滑にする方法として、「日本語初級者に伝わりやすい話し方」を全6回でお伝えしていきたいと思います。

 今回は第一回目として、当法人の留学生支援の概要と現状をふまえ、「外国人介護職員の日本語レベルと求められる配慮」についてどのように考えているのか、介護施設での取り組みや工夫を交えてご紹介します。

2.日本語レベルに応じた配置転換が必要

 当法人では、介護福祉士として日本で働くことを夢見て来日した留学生を、2017年4月から支援(学費・住環境・アルバイト就労)しています。(表1

※1:日本語能力試験(JLPT)
N5~N1(数字が小さいほど難しいとされます)が最初の判断基準となる。技能実習制度(介護)で来日する外国人はN4以上が求められ、大学や専門学校に入学し講義を理解するためにはN2以上が必要とされている。
参考:N1~N5認定の目安 https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html

  Cさん(台湾出身)とDさん(ミャンマー出身)は支援開始前に来日して日本語学校に通っており、日本語で問題なくコミュニケーションがとれる状態にありました。また、日本の生活にも慣れており、介護福祉士養成校への入学も決まっていました。

 その後、この二人は当法人の介護施設にて正職員として採用され、新しいステージに進んでいます。(Cさんは介護福祉士の国家試験に合格し、Dさんはわずかに点数が届かず不合格でしたが、内定によるビザの申請が可能なため、来年の試験に再チャレンジの予定)

 一方、Aさん(カンボジア出身)とBさん(ベトナム出身)は初来日からの支援開始となり、日本語の勉強を始めてからまだ1年以内で、日本語レベルはN4でした。この二人はまず日本語学校に1年間通い、その後介護福祉士養成校に入学しました。

 いずれの留学生も当法人の介護施設でアルバイト就労しながらの通学となりました。その支援にあたっては、留学生個々の日本語レベルや「介護」という仕事への理解度に応じた配置転換の必要性を感じています。

3.日本語初心者は段階的に経験を積ませる

 <来日1年目> AさんとBさんは、日中は日本語学校に通っていましたが、他のベトナム人留学生とアパートで共同生活をしていたため、主にベトナム語を使用する生活をしていました。週末のみ当法人が貸与するシェアハウスで他国からの留学生(N1・N2レベル)と共同生活しながら、グループホームで日本人の生活や文化に慣れることを主目的としたアルバイトに従事しました。シェアハウスでは他の留学生との共通言語が日本語になり、また日本の生活に慣れた留学生から生活の細かなアドバイスをもらえたようです。

 夏休み中は、より日本語でのコミュニケーションを求められるデイサービスと従来型特養でアルバイトを行い、当法人の外国人介護職員向け日本語教室で集中講義を受講しました。

 年明けからは従来型特養に配置転換し、本格的に介護職としてのアルバイトを開始しました。この間に日本語による会話はだいぶできるようになりましたが、日本語能力試験は2名ともN3不合格でした。合格している自信があったのでがっかりしていましたが、「半年後の試験で合格する」という明確な目標に向けて気持ちを切り替えていました。

  <来日2年目>介護福祉士養成校に入学し、当法人が貸与するアパートで2人暮らしを開始しました。引き続き従来型特養でアルバイトを法定の範囲内で行っていますが、介護職の一人として、すでになくてはならない存在になりつつありました。

4.受け入れ側に求められる3つの配慮

 外国人が日本語学校で学ぶ日本語は、いわゆる「正しい日本語」です。しかし実際の日本語、特に同僚や利用者との会話で話される日本語は、主語や助詞の省略が多く、さらに長くなりがちです。長く話しているうちに、最初と話が変わってきてしまうこともあるでしょう。また、一つの物事を表すのにいくつも言い方があったりすることも、日本語初級者を混乱させる原因のようです。

  そこで、当法人の現場責任者が感じた「受け入れ側に求められる配慮」は以下の3点です。

<日本語初級者を受け入れる際に求められる配慮>

①利用者に話す時と同じように話すこと

 大きな声ではっきり、ゆっくり、一文を短く話すこと。これは現場で働く介護職であれば無意識にできていることだと思います。

②正しい日本語で話すこと

 ある程度日本語能力が高まってきたのなら、通常の日本人の会話に慣れる必要があります。しかし、日本語初級者の場合は、学校で学んだ表現に近い話し方を意識すると伝わりやすくなります。また、彼らは日本人の同僚の発言を真似て日本語を学んでいますので、外国人介護職員が利用者へタメ口を使ったり、ぞんざいな言葉遣いをしたりした場合は、自分たちの言葉遣いを反省しなければなりません。

③「大丈夫です」は大丈夫ではないと心得る

 何かを説明した際に「大丈夫ですか?」と聞くと、彼らは「大丈夫です」と答えることが多いです。しかし、指示していたことができていないこともあります。こちらが話した内容が本当に伝わっているのか表情を観察しながら、少しでも不安そうな表情をしたら別の言い方で再度説明してみることが必要です。

 必要に応じてこちらが話した内容を自分の言葉で説明させてみると、どのように受け取ったのか、理解できているのかが確認できます。当法人の現場責任者は、日本語能力試験では測れない、書く・話す勉強の機会を増やすために、その日の自分の業務について日本語で記録し説明する交換業務日誌を二人に課していました。※2

※2:ワセダバンドスケール
 日本語能力試験は、文字・文法・語彙に関する知識とそれを使って文章を読んだり・聞いたりする能力を測るものであり、書いたり・話したりする能力を測ることはできません。当法人が立ち上げた「すみだ日本語教育支援の会」の日本語講師は、そこで培った経験をもとに、外国人介護職が業務遂行に必要な日本語能力を測定する「ワセダバンドスケール(介護版)」を開発し、教育に用いています。
*外国人介護職への日本語教育法―ワセダバンドスケール(介護版)を用いた教え方 2017 宮崎里司著、
 監修 中野玲子著、早川直子著、奥村恵子著 日経メディカル開発
<ワセダバンドスケール(介護版)> http://nmp.nikkeibp.co.jp/04books/books/book_49.html

5.留学生とともに成長する

  「日本語初級者の外国人介護員を受け入れて、何が変わったか?」と職員に聞くと、「現場責任者の日本語が一番変わった」という声が聞かれました。冗談のような話ですが、日本人の同僚にとっても、わかりやすい日本語を話すようになったそうです。外国人介護員だけでなく、利用者や日本人の同僚にとってもきちんと伝わる話し方をすることで、全員が良い影響を受ける結果となりました。

 また、人手不足の現場ではありますが、AさんとBさんを最初にグループホームに9か月配属し、時間をかけて日本の文化や高齢者の生活、日本語を学ぶ機会を作ったことで、結果的に来日後2年経った今では日本語も飛躍的に上達し、特養の現場でなくてはならない存在になっています。何か特別な配慮が必要というよりも、一緒に働く同僚が家族と離れ、慣れない異国文化の中で言葉のストレスを抱えながらがんばっているその気持ちに寄り添い、全員が働きやすい職場を目指して皆が少しずつ努力することが必要なのだと感じています。

 第2回以降は各論として「外国人介護職員が理解しやすい話し方/伝え方」を留学生の日本語レベルと受け入れ部署ごとに事例をお伝えしていく予定です。ご期待ください。