施設マネジメント


【第1回】 「総論 デジタル改革関連6法成立!
     加速する科学的介護の推進①」

〈はじめに〉

 5月12日にデジタル改革関連法が成立したことで、9月1日よりデジタル庁の発足が決定しました。「それが福祉業界に何の関係があるのか」と言われてしまいそうですが、実はこの事で、次期介護報酬を含めた2024年以降の未来像が確定しました。規定路線の介護データ収集と科学的介護の推進は、さらに強力に加速される体制に入ったことに気づいている福祉関係者はあまりいません。

 医療・介護業界は、1962年医療法改正以来の約60年間に渡り、厚生労働省に主導された定期的な報酬改定に慣らされ、振り回されてきました。そのため、新規加算への投資については模様眺めしようとの空気があります。「軽々しく投資をするとコスト増で経営への悪影響が出る」「いつもの厚生労働省の罠ではないか?」という疑念に駆られつつ、加算獲得のための投資については様子を見ているのです。

 そこには病院やデイサービス、訪問看護の整備時に見られた苦い経験があります。厚生労働省のいつものパターンでは、足りない時は報酬を適正価格の2倍に設定して"飴で誘導"し、全館改装・セラピストの大量雇用などの先行投資資金を回収しなくてはならないように縛っておいて、"数が充足すれば丸めの報酬を下げて支出を抑える"のが常套手段だからです。

 しかし2018年、2021年、2024年へと続く近年の報酬改定では、厚生労働省から一貫性と整合性を持った介護データ収集体制の整備、明確な科学的介護への効果を検証する意図が継続的に示されつづけています。福祉関係者も"なんとなく今までのパターンと違っている"ことを漠然と感じ始めたというのが正直なところでしょう。

 実際に、今後行われていく科学的介護のための改定は罠ではありません。今後の設備投資や介護方法の改変については、この国で暮らす限りすべての介護保険事業所が覚悟を求められることになります。ただし、多大な投資が必要となる時期が来るまでに2、3年から6年ほどの猶予があります。コストを出来るだけ低減したい施設ほど、今後の科学的介護への真剣な研究と、効果の実証への備えが必要なことが明らかとなってきました。

〈国家プロジェクトとして科学的介護が推進されている〉

 私たち福祉関係者は厚生労働省の動きは逐一追っていますが、内閣府や経済産業省の動きも同時に注目している人は殆どいません。しかし実際には、10年以上前から厚労省と経産省は定期的に会合を持ち、平成24年からは連携して介護分野でのロボット機器開発・導入促進に取り組んで来ました。

 私も大学での授業準備の関連で調べなければ、以前から気付けなかったかもしれません。秘密裡ではありませんでしたが、着実に作業は進み、平成25年から平成27年では20億円の予算をかけて福祉施設を中心に実証実験を重ねています。この時期には、私の勤める「老健うなね杏霞苑」にも、オムツロボットの開発技術者が直接訪問して市場調査をしていかれました。すでに介護負担軽減への効果を判断基準に、介護保険適応の具体的な機器選定も終わっています。

 さらに平成28年からは、未来投資会議(安倍総理大臣が議長の内閣主導の会合)において、介護ロボットの開発および普及が国家プロジェクトとなりました。医療・介護サービス分野にデータ分析、ICT、AI、ロボット等の技術革新を最大限活用し、限られた人員でも質の高い医療介護サービスの提供を可能にする狙いです。

 このプロジェクトは、安倍内閣で官房長官であった菅首相が令和2年に経済財政諮問会議に継承させ、規制改革推進会議の医療介護ワーキンググループで工程管理しながら強力に推し進められています。

〈国家プロジェクトの画期的な点は、工程表が守られる点にある〉

 今までの報酬改定では、厚労省内の都合(実際は予算配分上の都合)を基点に報酬が設定されてきました。このため限られた予算内に収めようと無理を重ね、通常型老健に配分する報酬を削り、強化型に回すといった形で進められるのが常でした。

 しかし、国家プロジェクトで管理されたことで、薬価の引き下げによる社会保障費の再配分、消費税10%導入での恩恵を受け、省予算を超えた対応を受けることになりました。社会保障費用は、2014年時点で医療費40兆円、介護費10兆円でしたが、これが2025年では医療費60兆円、介護費20兆円となる予測です。消費税での獲得予算はこの問題対応にも回されます。

 つまり、我々も努力して成果を上げて国家プロジェクトに協力すれば、報酬を削られる恐れが比較的低くなる時期に入って来たということです。すでに厚労省は効果が高い介護サービスの報酬増額について「報酬を増額すると短期的には保険給付の支出が増えるが、効率的なサービスが広がることで中期的にはコストを削減できる」と長期的にサービスを広げる視点で考えるとの方針を公表1)しています。そして実際に2021年の介護報酬改定では、コロナ禍の財政難の中にかかわらず、介護データ提出と抱き合わせの加算では0.7%の報酬アップが実現されています。

〈2024年までの報酬改定での重点分野と工程表はすでに公表されている〉

 では、具体的に安倍~菅内閣で何が検討されてきたのかを見てみましょう。


 この2016年の第2回未来投資会議資料を見れば一目瞭然ですが、2018年改定で特養での「夜勤職員配置加算」においてロボット導入15%を人員配置0.1人分に相当すると評価して報酬化した理由は明らかです。「4.ロボット、AI等の技術革新の後押しと、介護報酬や人員基準への取り組み」に書かれているように、介護ロボット(センサーを含む)導入により効率化・負担軽減効果を検証の上、介護報酬や人員・施設基準の見直しに反映させると方針が決まっていたからです。

 また、通所・訪問リハに対して質の評価データ提出を要件とするリハビリテーションマネジメント加算が新設された理由は、「3.自立支援介護の全国展開、介護報酬への取り組み」に書かれてあるように、2018年早期にデータ基盤の構築に着手するためであったことが判るでしょう。

 そして、2021年の報酬改定でLIFEとそれに基づく加算が導入されたのも、2017年未来投資会議の工程表で「4.自立支援に向けた科学的介護、ロボット等活用」に書かれているように、「データベースを構築。効果が裏付けられた介護サービスについて2021年度以降の介護報酬改定で評価」することが決まっていたからです。


 さらに、医療・福祉サービス改革については、今後3年間の工程表も見ることができます。今後の改定について、その内容からどのような展開が予測されるかは次回以降で見ていきます。

 

引用・参考文献
1)日本経済新聞 平成30年9月14日記事
2)参考:第2回未来投資会議(平成28年11月10日) 資料7,P.3.
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai2/siryou7.pdf
3)参考:第10回未来投資会議(平成29年6月9日) 資料7.P.18.
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai10/siryou7.pdf
4)新経済・財政再生計画 改革工程表2020,P.22~44.
  https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_201218_2.pdf