施設マネジメント


【第7回】 「介護請求ソフトは複数の他社ソフトとの連携が苦手」

 2000年に介護保険制度が始まり21年が経ちました。様々な分野の介護サービス整備は、その時々のニーズに沿って重点的に進められてきています。介護保険3施設(特養、老健、介護医療院)は1990年代~2008年代に集中的に整備され、デイサービスや訪問介護は2000年代から~2006年代、訪問看護や通所リハビリなどは2005年代~2016年代頃に数が増えています。そして、その時期に導入された機器の大半が、現在も当時の技術をベースに運用されています。

 パソコンのハードディスクには寿命があり、データ通信の規格は機器の進歩に従い少しずつ変更されますので、関連する機器類は数年程度で定期的に交換して更新するのが前提です。しかしながら、福祉業界では「壊れるまでそのまま使う」「部品交換で済むならそれで済ます」ということが常態化しています。

機器更新が後回しにされる介護業界

 急増する高齢者に対応するために社会保障費は10年間で倍増し、政府予算を締め付けています。このため、社会保障予算の増大抑制の大号令の下でサービスの整備が進展し、おおむねニーズが充足して落ち着きをみせている分野から介護報酬のカットが行われています。

 介護事業で発生するコストのほぼ9割は人件費と設備費です。有効求人倍率5~15倍の厳しい人材不足の中で、人件費は上がる一方です。その結果、機器の更新やメンテナンスといった設備への投資が限界まで見送られる傾向にあるのです。

 福祉業界では、2009年にリリースされたWindows 7をサポート終了となった2020年1月14日ギリギリまで使っていたという話も珍しくありません。

 介護請求ソフトの会社も、顧客先の機器類が時代遅れだとそれをサポートしなくてはなりません。技術の進歩を取り入れたいものの、開発よりも旧世代の保守に技術者をとられてIT業界全体の進歩に取り残されてしまうのです。

 人材不足や新人の獲得に悩んでいるのは介護業界だけではありません。IT業界も人材が不足しています。特にこのような「旧世代技術の遺物」を取り扱うような仕事をやっている会社は、新人が長続きしません。

 何故かと言えば、古い技術を学んでも、会社が生涯雇い続けてくれる保証はないからです。また、IT技術の進歩は早いですから、時代遅れの会社が業界の中でたちまち生き残れなくなることを彼らはよく知っているのです。

IT業界の「2025年の崖」

 この状況が進むと、2025年に1つの限界点を迎えます。旧世代技術を身に付けた技術者が一斉に定年を迎え、支え手を失った旧世代機器が次々と動かなくなり、データ損失やシステムダウンが多発することになるのです。これをIT業界では「2025年の崖」と呼んでいます。



 政府は、この問題で引き起こされる経済損失が12兆円に達すると予想しています。そうした中で、2018年から政府主導でデジタル化による連携の取り組みが始まりました。

 そこで問題となったのは、機器の製作会社も異なり、技術的世代も混ざりあった現状です。インターネットはありますから通信に問題はありません。しかし、機器同士でデータをスムーズに読み込めないのです。

 業者間でデータを流そうとしても規格は統一されていませんし、データの取り方や保存方式もバラバラで、矛盾や不具合が発生したときの取り決め(規約)もまったくありません。

 デジタル庁が創設されることになったのも、この問題を解決するためなのです。

介護請求ソフトは他の会社のソフトとの連携が苦手

 通常私たちが使用している介護請求ソフトは、他社とのデータ共有を前提に開発されていません。連携がうまくいかない様子は、同じ顔立ちのアジア系の民族同士でも、言語が違えば意思の疎通がうまくいかないのに似ています。単語(データ)の一部がわかる事はあっても、お互いに何を話しているのかはほとんど理解できないのです。

 大きな事業所の中には、違う会社のソフトを使いデータを連携させているところもあるかと思います。その場合は、施設内にあるメインで使っている請求ソフトのサーバ (データの置き場)に高価な翻訳装置をつないで、相手の言語に合わせて変換しています。スピードを犠牲にして処理をしているのです。

 データを連携させるときに難しいのは、「翻訳しなくても良い部分」と「同じ単語(データ)でも意味が違うものが混在している部分」について、どう扱えば良いかルールを決めないといけない点です。

 コンピュータは、人間と違って適当にうまく辻褄を合わせてはくれません。これは、相対でデータをやり取りしている間は調整する程度で何とかなります。しかし、複数の会社とお互いにやり取りすることになると、翻訳装置がいくつあっても足りません。データ処理のスピードは落ちるばかりで、最終的には止まってしまうのです。

 Webデータ連携では、インターネットでよく使われるhttpという通信方法をデータ送受信に使っています。通信で会話をする時は、お互いにどんな言語で話をするか知っていなくてはなりません。

 今回の介護報酬改定で示された「LIFE」では、CSVというデータ様式でやりとりをすることになりました。これは非常に古くから広く使われている様式で、日常使用している文字を入力するので人が簡単に読むことができて、確認・修正できる点が使い勝手の良いところです。

 ただし、CSVは取り扱いが非常に簡単なのですが、近年開発された様式に比べるとデータ処理に時間がかかるという欠点もあります。

 ICT導入時の混乱が予想された今回の改定では、紙や手入力での提出に備えて、Excelなどから変換しやすいCSVを採用したのだと考えられますが、ビッグデータの処理には向かないので一時的な処置と思われます。

 実際に現在、政府省庁で導入が進んでいるデジタル化では、RESTというWebサービスでJSONやXMLというデータ様式が使われています。将来的には、ICT導入が9割に達したところで介護請求ソフト会社側に提出データ様式を切り替えさせるものと予想されます。

API連携への対応で介護請求ソフトの見極めができる

 前回もとりあげた工程表の中には、「マイナポータルと民間PHR事業者のAPI連携開始(2021年度早期~)」と記載されていました。これが指し示す大切な事は、「連携のためのルール作りが最終段階に入り、Web連携のテストが始められる見通しが立っている」ということです。


 通常、連携のテスト期間は数週間から数カ月ですので、2022年には体制が整う計算になります。

 また、これより先に医療連携でデータ連携は導入されます。請求ソフト会社は介護保険も扱っていることが多いので、2023年度に入ってからSOAPやRESTなどのWebサービスをサポートするためのバージョンアップか、システム入れ替えが行われることになるでしょう。

 現在契約中の介護請求ソフトがWebサービスをサポートしていない場合は、このタイミングでその会社の力量を見極めてください。

 デジタル庁が採用したRESTというWebサービスは、原則さえ飲み込んでいれば完全に理解が行き届かなくてもプログラムを書いて動かすことができます。非常に開発の自由度が高く汎用性が良いので普及していますが、API連携ではデータ項目の並びや構造設定、ルール制御の経験値などで他社との連携がうまくできるかが決まります。

 契約中のソフト会社が、API連携で不具合が多かったり、短期間のシステム変更や入れ替えが頻繁に繰り返されたりする場合は要注意です。その会社はテストを自社内でしか行っておらず、他社とのAPI連携の経験や技術開発力が低い可能性が高いのです。次期改定で医療・介護事業所間の連携が本格化した時に役不足となることが懸念されます。

引用・参考文献
1) 経済産業省:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
2) 厚生労働省:データヘルス改革に関する工程表について (2021年6月4日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000788259.pdf
3) 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室:APIテクニカルガイドブック 2019年(平成31年)3月28日