災害対策


【第6回】 「サイコロジカル・ファーストエイド」

【はじめに】

 大規模災害時には多くの人が被災します。場合によっては、同じ施設で働く同僚が被災しながらも働き続けなければならなかったり、施設が地域の被災者を受け入れる福祉避難所になったりするなど、身近な所で被災した方々が精神的に厳しい状況になります。その時の備えの一つとして、「サイコロジカル・ファーストエイド」を学びましょう。

【サイコロジカル・ファーストエイドとは】

 サイコロジカル・ファーストエイド(Psychologucal First Aid:PFA)とは、「苦しんでいる人や、助けが必要かもしれない人に、同じ人間として行う、人道的、支持的な対応のこと」です。名前だけ聞くと難しそうなイメージになりますが、専門家にしかできないものではありません。対人援助をされている方には馴染みやすい項目が多く含まれておりますので、災害対策の一つとして施設に取り入れて頂きたいと考えます。

 また、似たような名前で「サイコロジカル・リカバリー・スキル」というものもありますが、これは災害後に起こりやすい困難や問題に対処するための「スキル」(訓練によって身につけることのできる技能)を教えるもので、メンタルへルスの専門家などが活用する点で違いがあります(表1)。

 その他、ストレスとなった体験の詳細やその時の感情などを語ってもらうことでストレスを緩和する「心理的デブリーフィング」という手法もありますが、それとも違いますのでご注意下さい。(※現在では心理的デブリーフィングは効果が無いとされています)

 

【活用場面】

 特に福祉事業所の職員としては、下記場面で活用できると考えられます。

・親せきや友人など身近な人が被災した場合
・職場の同僚が被災した場合
・被災地支援へ出向いた場合
・職場で被災者を受け入れた場合

 筆者も避難所や被災した福祉施設での支援の際に、サイコロジカル・ファーストエイドの考えが非常に役に立ちました。西日本豪雨で被災した施設への支援の1年後に、施設職員さんから「一番助かったのは職員を受け入れて話を聞いてくれたこと」いう話を聞いた時に、物資支援やその他の支援以上に「寄り添うこと」が重要だと感じました。

 

【実施のポイント】

 サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版から、一部を抜粋してご紹介します。

引用:アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク,アメリカ国立PTSDセンター
   「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き第2版」兵庫県こころのケアセンター訳,2009年3月.
   http://www.j-hits.org/

①サイコロジカル・ファーストエイド提供の方針
 
Guidelines for Delivering Psychological First Aid

・いきなり介入するのではなく、まずは様子を見守ってください。次に、どのような手助けができるかを見極めるために、簡潔で、思いやりのある質問をします。

・関係づくりに最も有効な方法は、多くの場合、現実的な支援(食糧、水、毛布)です。

・場の状況や対象となる人の様子をよく見て、その介入が負担になったり破壊的になったりしないだろうという判断ができてから、接触を開始してください。

・被災者が拒否することにも、逆に殺到する場合があることにも、準備をしておいてください。

・穏やかに話してください。忍耐強く、共感的で、思慮深くあってください。

・シンプルでわかりやすい言葉を使い、ゆっくり話してください。略語や専門用語を使わないでください。

・被災者が話し始めたら、聞いてください。話を聞くときには、かれらが何を伝えたいのか、あなたがどう役に立てるのかに焦点をあててください。

・被災者が身を守るためにとった行動のうち、よいところを認めてください。

・被災者のニーズに直接役立つ情報を提供し、求めがあれば何度でも、対処方法を分かりやすく示してください。

・正確で、かつ被災者の年齢にふさわしい情報を提供してください。

・通訳を介してコミュニケーションをとるときには、通訳者ではなく本人を見て話しかけてください。

・PFAの目的は、苦痛を減らし、現在のニーズに対する援助をし、適応的な機能を促進することです。トラウマ体験や失ったものの詳細を聞き出すことが目的ではないことを、常に念頭において活動してください。


実際の現場の話

 被災者支援の経験の少ない方の中には、「被災者の誰もが支援を喜んでくれる」と思う方もいますが、実際は違います。被災によるショックが大きかったり、同じことを何度も聞いてくる外部支援者への対応にうんざりしていたりするなど、様々な事情があり支援を拒否されることも少なからずあります。まずは、様子を見ながら、「小さく役に立つこと」で信頼を築くことが重要です。

 実際、筆者が熊本地震の際に避難所に支援に入った時には、食糧などの物資や、熱中症防止の飴玉や子たちに喜んでもらえるシャボン玉などを配りながらお話を聞かせて頂いたことで、その後の支援がスムーズにいきました。 

 また、西日本豪雨でも被災した施設に支援に入る際に静岡名産のお茶を持っていきふるまうことでグッと距離感が短くなったこともあります。まずはホッとする、ちょっと嬉しいことを提供することは非常に有効です。

 

②避けるべき態
 Some Behaviors to Avoid

・被災者が体験したことや、いま体験していることを、思いこみで決めつけないでください。

・災害にあった人すべてがトラウマを受けるとは考えないでください。

・病理化しないでください。災害に遭った人々が経験したことを考慮すれば、ほとんどの急性反応は了解可能で、 予想範囲内のものです。反応を「症状」と呼ばないでください。また、「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点 から話をしないでください。

・被災者を弱者とみなし、恩着せがましい態度をとらないでください。あるいはかれらの孤立無援や弱さ、失敗、 障害に焦点をあてないでください。それよりも、災害の最中に困っている人を助けるのに役立った行動や、現 在他の人に貢献している行動に焦点をあててください。

・すべての被災者が話をしたがっている、あるいは話をする必要があると考えないでください。しばしば、サポーティブで穏やかな態度でただそばにいることが、人々に安心感を与え、自分で対処できるという感覚を高めます。

・何があったか尋ねて、詳細を語らせないでください。

・憶測しないでください。あるいは不正確な情報を提供しないでください。被災者の質問に答えられないときには、事実から学ぶ姿勢で最善を尽くしてください。


実際の現場の話

 特に初めて被災者支援をする方は、少なからず興奮し、「何か支援しよう」と意気込んでいます。困りごとを聞いてあげよう、話を聞いて楽になってもらおうと接触を図ったり、少ない情報で「○○だ」と思い込み行動したりすると、当事者とのずれが出てしまうということが現場ではよく起こります。

 

③子どもや思春期の人に対応するときには
 Working With Children and Adolescents

・幼い子どもに対応するときには、椅子に座るか、子どもの視線の高さにあわせてしゃがみましょう。

・学童期の子どもに対しては、感情、心配なこと、疑問を言葉にできるように手助けしてください。普段気持ちを
あらわすのに使っているシンプルな言葉(頭にきた、さびしい、こわい、心配など)を用いましょう。「恐怖」「脅
え」などの極端な言葉は、かえって苦痛を増すので、使わないでください。

・子どもの話を注意深く聞き、あなたのことをちゃんと理解しているよ、と伝えましょう。

・子どものふるまいや言葉が、発達的には退行しているように見えることがあることを知っておいてください。

・言葉づかいを子どもの発達レベルにあわせましょう。幼い子どもには通常、「死」のような抽象的な概念は伝わ
りにくいものです。可能な限り、シンプルで直接的な表現を用いてください。

・思春期の人に対しては、大人同士として話しかけましょう。そうすることによって、かれらの気持ちや心配や疑
問にあなたが敬意を払っているというメッセージを送ることができます。

・子どもに十分な情緒的支えを提供できるよう、親の機能を補強し、支えてください。


実際の現場の話

 子どもたちは年齢によって、またそれぞれの発達によってコミュニケーションの仕方が変わってきます。実際の現場では、男性より女性、できるだけ年代の近いスタッフがアプローチするなど、対象によって受け入れてもらい易いメンバーからのアプローチも実践しています。

 

④高齢者に対応するときには
 Working with Older Adults

・高齢者はもろさをもっていますが、同時に強さももっています。かれらは人生のなかで逆境を乗り切ってきた人
たちであり、多くの人が効果的な対処能力を身につけています。

・聴力に問題が見受けられる人に対しては、低いはっきりした声で話しかけましょう。

・見た目や年齢のみに基づいた決めつけをしないでください。混乱した高齢者は、記憶、思考、判断などに、不可逆の問題を抱えているように見えることがあります。環境の激変によって災害に関する失見当識がおこり、それが一時的な混乱を引き起こすことがあります。環境の激変は、視力や聴力の衰え、栄養不良や脱水状態、睡眠障害、持病あるいは服薬に起因する問題、社会的孤立、孤立無援や対応できないという感覚などを引き起こします。

・精神的な疾患を抱えている高齢者は、不慣れな環境に対して、さらに混乱したり、困惑したりしやすいでしょう。そのような人を特定したら、精神保健相談、あるいは適切な機関への紹介が受けられるよう援助してください。


実際の現場の話

 避難所運営では、町内会の役員やまち作り関係の団体が非常に重要な役割を担ってくれます。その対象は高齢の方が多いですが、地域の方々の顔を知っていて、また地域の方々からの信頼もあり、多くの避難所でキーパーソンとなります。

 また、簡単な日常会話や被災者同士の会話の内容からキーパーソンを特定し、さらには混乱している人や認知機能が低下している人などもチェックしながら、それぞれに必要なアプローチをしていきます。

 

⑤障害をもつ人に対応するときには
 Working With Survivors with Disabilities

・援助を求められたときには、できるだけ静かな、刺激の少ない場所で対応するようにしてください。

・直接のコミュニケーションが困難でないかぎり、介護者ではなく本人に向かって話しかけましょう。

・コミュニケーション能力(聴力、記憶、発話)の障害が見受けられる場合には、簡単な言葉で、ゆっくりと話しかけましょう。

・「障害をもっています」と主張する人の言葉を信じてください――たとえそれが見た目に明らかなものでなく、あなたにとって聞きなれないものであったとしても。

・どう手助けしたらいいか分からないときには、「何かお手伝いできることはありますか」と聞いてください。そして、その人が言うことを信じてください。

・可能なら、自分のことは自分でできるようにしてあげてください。

・目の不自由な人が慣れない場所を移動するときには、「腕をお貸しましょうか」と申し出てください。

・その人の必要に応じて(耳が不自由など)、情報を書きとめることを申し出たり、お知らせを文書で受け取れるよう手配したりしてください。

・その人の介護必需品(薬品類、酸素ボンベ、呼吸器装置、車椅子など)を確保してください。


実際の現場の話

 障がいの種別によりますが、一見してわかりにくい内部障がいや精神疾患、発達障害は、避難所でも理解されにくく孤立していることが多いです。可能なら、アプローチをする前に他の方とのやり取りや周辺の情報などから概ね障がいのあたりをつけてアプローチします。

 例えば、表情を見ながら体調が安定している時間帯に話しかけたり、筆談できる物品をもっていったりするなど、事前の準備も必要です。

 

【活動内容】

 次に、サイコロジカル・ファーストエイドの活動内容を示します。福祉の現場で対人援助に長年従事している方にとっては当たり前のことが書いてあると思いますが、被災者は特殊な状況や大きなストレスを受けていることや、その渦中においてはつなげる社会資源も少なく十分に支援できないことなどに注意が必要です。対人援助に長年従事している人ほど、"通常の現場とは違う"という認識で挑まれることをお勧めします。

<サイコロジカル・ファーストエイドの8つの活動内容>

1.被災者に近づき、活動を始めるContact and Engagement
【目的】被災者の求めに応じる。
    あるいは、被災者に負担をかけない共感的な態度でこちらから手をさしのべる

2.安全と安心感 Safety and Comfort
【目的】当面の安全を確かなものにし、被災者が心身を休められるようにする

3.安定化 Stabilization
【目的】圧倒されている被災者の混乱を鎮め、見通しがもてるようにする

4.情報を集めるーいま、必要なこと、困っていること 
  Information Gathering: Current Needs and Concerns

【目的】周辺情報を集め、被災者がいま必要としていること、困っていることを把握する。
    そのうえで、その人に あったPFAを組み立てる

5.現実的な問題の解決を助けるPractical Assistance
【目的】いま必要としていること、困っていることに取り組むために、被災者を現実的に支援する

6.周囲の人々との関りを促進するConnection with Social Supports
【目的】家族・友人など身近にいて支えてくれる人や、地域の援助機関との関わりを促進し、
    その関係が長続き するよう援助する

7.対処に役立つ情報 Information on Coping
【目的】苦痛をやわらげ、適応的な機能を高めるために、
    ストレス反応と対処の方法について知ってもらう

8.紹介と引き継ぎ Linkage with Collaborative Services
【目的】被災者がいま必要としている、あるいは将来必要となるサービスを紹介し、
    引き継ぎを行なう

 

【まとめ】

 サイコロジカル・ファーストエイドは、被災者のケアに有用です。ご興味のある方は兵庫県こころのケアセンターが出されている「サイコロジカル・リカバリー・スキル実施の手引き」を参照ください。

サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 兵庫県こころのケアセンター
http://www.j-hits.org/psychological/

 大規模災害の物理的復興には非常に時間がかかります。その一方で、目の前に被災者に寄り添う支援が何より重要となります。サイコロジカル・ファーストエイドが広がり、被災者の心のケアが少しでも進めば幸いです。