サービス利用希望について利用者と家族の意向の調整が必要な場面
図は,x軸を利用者,y軸を家族(または関係者)として,ショートステイ(以下,SS)を利用する際の利用者と家族の意向の相関関係を単純に示したものである。ソーシャルワーカー(以下,SW)の役割が重要になってくるのは,主に第Ⅱ象限の「利用者は行きたくないが,家族が利用を希望するケース」である。
そもそも,利用者が行きたくないのに家族の利用したいという希望を優先することは,利用者の意思に反することであり許されないのではないかという素朴な疑問も生じる。しかし,SSの目的は,利用者の心身機能の維持もあるが,それ以上に家族の身体的・精神的負担の軽減を図ることにある。つまり,SSの存在意義はレスパイトにあり,これがSSにおいてSWの調整や働きかけが必要になる根本的な理由だと言える。
利用者が判断能力を有している(認知機能に大きな問題がない)場合
家族がレスパイトや急な理由で不在となる場合には,利用者はしぶしぶでもSSの利用に応じるのが通常であろう。しかし,自宅でも一人で過ごせると考える介護度の軽い人や自宅での生活に執着する人の場合,普段と違う環境で生活をすることを容易に受け入れられない場合がある。
それでは,サービス利用希望に関して利用者と家族の意向に調整が必要な場面について,利用者が判断能力を有している(認知機能に大きな問題がない)ケースを考えてみよう。
事例1:SSになかなかなじめない利用者
A氏,80代,男性,要介護1
身体状況:加齢に伴う心身機能の低下
家族状況:実子夫婦と同居
A氏は介護度も軽く,家族が不在でも自宅で何とか過ごすことが可能であった。介護者のレスパイトと不在時の対応のためにSSの利用を開始したが,当初はなかなかなじめなかった。A氏は併設のデイサービスを利用していたが,SSの時になると行きたくないと訴え,家族を困惑させた。
サービス担当者会議では,私はA氏の気持ちを代弁することに努めた。判断能力を有している利用者の場合,行きたくない理由にスタッフの態度やサービスへの不満といった問題があることにも留意する必要がある。1年ほど利用が継続される中で,A氏に合ったフロアがあることに気づいた。利用してもらうフロアを固定したところ,顔なじみの利用者ができ,やがてA氏はSSに行くことに抵抗を示さなくなった。
事例2:利用初日に自宅へ帰宅することになった利用者
B氏,70代,女性,要介護3
身体状況:脳梗塞後遺症による半身麻痺
家族状況:姉妹と同居
B氏は同居している姉妹の援助を受けて生活しており,外部のサービスを利用することを好まない人だった。介護者のレスパイトのためにショートステイを利用することになり,B氏もそのことは理解していた。
利用開始に当たり,職員の声かけに注意し,できる限りの同性介助を行うなどB氏に配慮したが,これまでにない環境の中で過ごすことに耐え切れなくなったB氏は,施設に着いてから徐々に感情が昂ぶり泣き出してしまった。無理に引き留めると心に深い傷を負ってしまうおそれがあったため,家族とケアマネジャーに事情を説明し,入所したその日のうちに自宅に帰宅することになった。
利用者の認知機能に問題がある場合
利用者と家族の意向が対立するケースでは,利用者に認知症がある場合が多いように思われる。もっとも短期記憶に難があっても自宅を離れたくないという気持ちに変わりはなく,むしろ判断能力が保たれている人よりも自宅への思いは強いかもしれない。SWは,利用者の利益を最優先に考える専門職であることを忘れてはならない。知恵を絞って,可能な限り介護者のレスパイトを実現することを念頭に置きながら,併せて利用者の状況に配慮し,家族,施設職員,関係機関との情報共有,調整に努めることが求められる。
それでは,サービス利用希望に関して利用者と家族の意向に調整が必要な場面について,利用者の認知機能に問題があるケースを考えてみよう。
事例3:帰宅願望がある認知症の利用者
C氏,80代,男性,要支援1
身体状況:認知症
家族状況:配偶者と同居
C氏は80歳を越えているが,体力があって足腰もしっかりしており,離設の危険性が高い人であった。主介護者のレスパイトと不在時の対応のためにSSの利用を開始した。夕方になると帰宅願望が出て,介護職員を悩ませた。SWは,C氏が落ち着くまで話を聞いたり,日中の生活に変化を持たせるためC氏が好きな麻雀・将棋ができる機会を設けたりして対応した。しかし,利用を重ねてもC氏のSSを利用したくないという願望は変わらなかった。
このようなケースでの長期利用は利用者の心身機能に悪影響を及ぼすことが多いので,SWとしては家族に事情を説明し,利用者のストレスの軽減に努めるべきであろう。また,たとえ忘れてしまうとしても,利用に先だって家族からSS利用について利用者に説明してもらったり,利用中も家族と電話で話してもらえるようにしたりと,事前に調整しておくことも大事である。
事例4:初回利用後,家から一歩も出ようとはしなくなった利用者
D氏,80代,女性,要介護4
身体状況:認知症
家族状況:実子と同居
D氏は面接時に一言もしゃべらなかったが,利用初日の夜に「家に帰る」と言い出して激しい抵抗を示した。SWは,一緒に外に出てしばらく歩くなどD氏と行動を伴にした。D氏は,やがて帰宅するのをあきらめて施設に戻ると,疲れもあってか眠りについた。
2日目は,別の生活相談員が対応した。やはり夜になるとD氏は帰ると言い出し,玄関の風除室で立ち往生することになった。何とか初回利用は乗り切れたが,その後D氏は家から一歩も出ようとしなくなった。
ほかにも類似した例はある。SWはレスパイトだけに目を奪われ,利用者の意向を無視してはいけないことを教えてくれたケースだった。
利用者の意向をどこまで尊重できるか
事例5:将来的な施設利用を視野にSSを利用する独居の利用者
E氏,80代,女性,要介護3
身体状況:認知症
家族状況:独居
E氏は,かつては夫と障害のある子どもと3人で暮らしていたが,早くに夫に先立たれ,子どももE氏より先に他界していた。独居で認知症が進行しつつあることから,関係者は将来の施設入所を視野に入れてE氏のSS利用を開始することにした。周囲の専門職からすれば当然の選択と言えるが,E氏はSSになじめなかった。穏やかな性格のため騒ぐようなことはなかったが,夜になると家のことを心配して眠ることができなかった。
私は,ケアマネジャーにE氏の状況を説明し,利用日数を短めにすることを進言した。将来的に施設に入所することを見据えてのSS利用であったが,2回目の利用を前にしたある日の朝,E氏は自宅で亡くなっているところをホームヘルパーに発見された。E氏の最期は,孤独死として悲観的に受け止めるべきものだったのであろうか。私は必ずしもそのように言えないのでないかと思っている。
まとめと今後の課題
事業所が競合する中で,稼働率や収益を無視できないことは言うまでもない。しかし,利用者の意向や思いをないがしろにして稼働率を上げることだけを考えても,良い結果は生まれないであろう。また,家族のレスパイトを無視して対応困難な利用者のSSを断るということも,SSの存在意義に照らして許されないであろう。家族,施設職員,関係機関との調整や話し合いは骨の折れる作業ではあるが,SWの役割であると思って納得するしかあるまい。
日本は未曾有の超高齢社会を迎えており,今後ますます進展していく。少子化がわずかに改善されたとしても,高齢者の絶対数の増加は避けられない。それに伴い要介護者,認知症者の数も増えていくことが予想されている。地域包括ケアの実現に向けてさまざまな取り組みが進行しているが,SSが貴重な社会資源として存続するか否かは,ひとえにSWの努力にかかっているように思われる。 |