少し目をつむって想像してみてください。

 いつもの金曜日の午後。少し慌ただしいけれど、何気ない普段の業務を行っていたあなたに1本の電話が入ります。「市の決定事項として、区内全ての通所介護事業所の事業停止を明日から2週間要請します。早速ですが、あなたの事業所を明日から2週間閉鎖してほしい。」と要請が来た場合、どの様に対応されますか?

 「そんなバカな話があるわけがない。」と思われるかもしれませんが、これは令和2年3月6日(金)に名古屋市南区・緑区で実際に起こったお話です(図1)。



2週間の事業停止要請の背景

 愛知県は名古屋市内を中心に、スポーツジム(Sクラスター)と通所介護事業所(Dクラスター)の2か所でクラスターと呼ばれる集団感染が発生し、北海道についで全国第2位の感染者数となっています(3月17日現在)。図2に示すように、Sクラスターの感染拡大は、3月4日には抑制されていましたが、一方のDクラスターは感染の拡大が続いていました。このため、名古屋市は3月7日に、南区と緑区にある126の通所介護事業所(以下、デイ側)に事業停止要請を出しました。

 ところで、新型コロナウイルスの患者が入院できる医療機関は愛知県全体で51か所、ベッド数は169床※1です。3月4日時点で56床が埋まっており、Dクラスターの感染増加の拡大から、このままでは愛知県内の受入れベッド不足となることが危惧されたと考えます。
※1 3/17 190床確保 大村知事発表(中日新聞)

通所介護事業所に対し、2週間の事業停止要請。
そのとき何が起こったのか

 これまで感染症が発生しても、発生した施設のみの閉鎖であり、地域単位での施設の閉鎖はありませんでした。このため、対象が南区と緑区すべてのデイ側に指定されるとはどの事業者も考えておらず、さらに事前通告等は一切ありませんでした。3月6日の行政の動きと介護事業所等の動きの経過を図3に示します。

 令和2年3月6日(金)の14時頃、「名古屋市南区・緑区の全ての通所介護事業所に2週間事業停止要請を名古屋市が決定」という行政の記者会見の様子がテレビで報道されました。テレビを見ていた利用者やその家族からすぐに連絡が入りましたが、対象区内のデイサービスやサービスをマネジメントする居宅介護事業所(以下、ケアマネ側)への事前通達がなかったため、ケアマネ側もデイ側もすぐに調整に入れませんでした。15時頃、市役所からデイ側に電話連絡とFAXによる要請文が届きはじめましたが、126事業所すべてに情報が届くには1時間強を要しました。さらに、デイ側では、送迎時間に差し掛かっていたこともあり、通達内容を知るのが遅れた事業所もありました。一方、ケアマネ側への通達は、デイ側に遅れて16時頃から届きはじめましたが、訪問に出払っていたために18時過ぎに休業を知ったケアマネジャーも多かったようです。また、市役所からの通達のタイムラグのために、デイ側から問い合わせが来ても、テレビを見ていなかったケアマネジャーもいて、情報共有において混乱が見られました。

 行政から情報を得るために、名古屋市内の介護事業所向けのサイトである「NAGOYAかいごネット」にアクセスしても、確定情報が提示されたのは16時過ぎだったそうです。市役所に電話をした事業所もありましたが、なかなか通じなかったようです。事業所だけでなく、行政も混乱していたように感じました。

 情報入手後は、決定しなければならないことが山積みでした。土日が休みのデイ側は、月曜日以降に支援を中止した場合の利用者の生活の継続をどうするかを、土日も運営しているデイ側はまさに明日からの事を、各担当ケアマネジャーと相談しなければなりませんでした。その他にも、スタッフの休業についての取り扱い、家族への連絡、そしてなにより運営を継続するかどうかを、法的根拠やリスク管理を交えながら相談しなければなりませんでした。ケアマネ側は土日休みである事業所が多いので、デイ側は送迎後のおおよそ17~18時までの間に話し合いをしなければなりませんでした。つまり、翌週月曜日から、もしくは翌日からの支援と事業所運営の為に、通達から利用者や関係各所との連絡調整を含めた事業運営について検討する時間は、わずか1~2時間しかなかったのです。さて、その1~2時間で、皆さんの事業所は適切な判断が出来るでしょうか?

 今回、行政と介護事業所 、ケアマネ側とデイ側の情報伝達のタイムラグが現場の混乱の一因となりました。メールでの一斉伝達や、「NAGOYAかいごネット」の有効活用などが今後の課題と考えます。

パニックは突然起こる!その為に備えておきたい事

 今回の名古屋市の件を受けて、2020年3月6日付で「介護サービス事業所に休業を要請する際の留意点について」という事務連絡が、厚生労働省ウェブページの「介護事業所等における新型コロナウイルス感染症への対応等について」から閲覧することができます。図4にポイントを示します。

 例えば、「①通所介護支援を一時的に訪問介護支援に切り替える」とあるように、通所介護が事業停止となった場合に求められるのは訪問介護や訪問入浴、訪問看護などの訪問型の支援になります。名古屋市南区・緑区では、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、訪問介護事業を縮小させている所も多かったので、そもそもの代替として支援をお願いする事が困難な状況下にありました。地域にどれほどの訪問型支援の資源があるかは地域によって様々ですので、日ごろから関係性を持っておくことが重要になります。「もしも」に備えて対応するには、記録の取り方や無資格スタッフがいた場合の訪問支援の可否(ヘルパー資格の有無)、緊急時の昼食配達における保健所の取り扱いや連絡調整等、普段からの有事の備えが無ければとても調整できるものではありません。

 また、新型コロナウィルスに罹患された方が出た場合は訪問支援すらできなくなり、支援者が濃厚接触者になる可能性が高く、支援自体が出来なくなってしまいます。図5は、ケアマネ側やデイ側が事前に備えておきたい事を整理したものです。さらに、図6で示したように各施設、各利用者にスタンダードプリコーション(※標準感染予防策)の周知と徹底、感染防護具の準備と使用方法の確認などをしておくと良いでしょう。



次はあなたの地域かもしれない!

 国会でも可決された「新型コロナウイルス対策の特別措置法」における「緊急事態宣言」により、明日、あなたの事業所や地域が事業停止要請を受ける可能性もあります。今回の名古屋市の通知は、法的根拠がないままでの通知でしたが、今後は緊急事態宣言が法的根拠にも成り得ることから、「要請」ではなく強制的に事業停止となる為、そのような場合の想定をしておくことも求められます。もし、事業停止となった場合に事業を継続したら、今後罰則や訴訟リスクが高くなることが予想されます。

 介護保険サービスは、生活が成り立たない部分への支援として計画が立案される事から、支援を途切れさせる事は生活の継続が出来なくなることを意味します。有事の際の対応として皆様も是非名古屋の事例を参考にして頂き、危機感を持ってこの難局を乗り越えられるよう早急に取り組んで頂ければと思います。

通所介護事業所を休業して10日が経過して

 3月7日に休業要請が出てから10日が経過しました。この間、Sクラスターでの感染発生数は1名のみでした。一方、Dクラスターは、図7に示すように3月10日の10人をピークに、3月14日に一旦上昇に転じたものの、全体として減少傾向を示しており、休業の効果はでているように思われます※2。南区や緑区の介護職員の皆様の踏ん張りで、介護崩壊せずに経過したと思います※3
※2 3/17 1件、3/18 1件、3/20 2件、3/21 0件、3/22 0件
※3 3/21 デイサービス再開

 現在、自粛により、感染者数のピークの時期をずらし、ピークの山を低くすることで、医療崩壊を防いでいます。従って、遅かれ早かれどの地域でもピークがやってくることを念頭に置き、いざという時のために上述したような準備をしつつ、自分が感染しないように、また人に感染させないように、ひとりひとりが意識して行動していただければと思います。
※3/24現在、愛知県では感染経路不明者、及びその二次感染者が増えており予断を許さない状況である。