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昨今のデイサービス利用者・家族からの「要求・要望・苦情」の傾向

 近年,クレーム対応に関する世間の考え方が変わってきているように思います。『お客様は神様ではありません』などという張り紙を貼った飲食店が話題になったり,モンスタークレーマーやカスハラ(カスタマーハラスメント)などという言葉が流行語になったりしています。

 これは,過剰なクレームを言う客や過度な要求をする客が増加し店側も対応に苦慮しているということと,店側もクレームを聞いているばかりではなく客を選ぶようになっていることを示しているものだと考えています。中でも,高齢者による迷惑行為が増えているというニュースとリンクしているのが気になります。

 団塊の世代はお金を使い,それこそ『お客様は神様』という思想に基づくさまざまなサービスを受けてきました。そんな団塊の世代が高齢者となって,社会とコンフリクトを起こすようになっているのです。

 私の経営するデイサービスでは,クレームの件数はさほど増えてはいませんが,細かな改善の要求や,職員の対応に関する要望などは増えているように感じています。つまり,デイサービス業界にも確実に団塊の世代の足音が近づいているというわけです。介護業界も客商売としてのクレーム対応のノウハウを学び,リスク管理を身につけていかないといけないということです。

 さて,ここからは,当デイサービスに寄せられたクレームや過度な要求などの事例について述べていきます。クレーム対応に正解はありません。それは人が相手だからです。ただ,結果として利用者がサービスの利用をやめたのか,サービスの利用を継続したのか,このどちらかに必ず帰結します。これは,経営者として非常に大事な観点です。私たちがどのように対応したのかということと共に,その結果,売上を失ったのか,保持したのか,そういった面から分析してみるのも面白いかもしれません。

これまで経験した利用者・家族からの「過度な要求・要望」「理不尽な苦情」

事例1:「あの女はお客様扱いしていない。やめさせろ」という苦情

 Aさん(70代前半,男性)は契約の前から「自分は大企業で部長まで勤めたんだ」というようなことをおっしゃっていました。嫌な感じはしていましたが,私はそういう方をヨイショするのは得意だったため,うまく対応していました。

 しかし,そのうちある女性職員がなれなれしい口を聞いてしまったことに憤慨し,「お客様扱いしていない。あの女はやめさせろ」と怒鳴り散らす事件がありました。その後,正式に管理者の私に「あの女がやめなければ私がやめる」と申し出がありました。


 その女性職員の対応を見てきましたが,少々口が悪いところはあっても丁寧にしっかりと対応していました。そこで,対応策として,利用の曜日を変えることを提案しましたが拒否されてしまいました。そのうちにほかの利用者への悪影響も出るようになってしまったので,利用をおやめいただく方向でケアマネジャーを交えて話し合いをすることになりました。

 話し合いを通じて論理的に話を進めるために,これまであったことを時系列にならべ,女性職員に大きな落ち度がないことを会社が認めたこと,対応策を提案したものの拒否されたこと,女性職員がやめないのなら自分が利用をやめると言われたことを書面に書き起こしておきました。

 また,ケアマネジャーには,Aさんに早いうちに利用をやめてもらいたいことを伝えた上で,話し合いの際はAさん側に立ってもらい,あえて当デイサービスを責めるように話してもらいました。話が一方的になると,Aさんを逆上させてしまう可能性があるからです。

 ここまでストーリーを用意しておくと,話は意外とスムーズに終わりました。Aさんは終始私に文句を言っていましたが,最終的にはケアマネジャーに「Aさんにはもっとふさわしいデイサービスがあるから,一緒に探そう」と言ってもらうことで,納得して別のデイサービスを利用するに至りました。

事例2:「あの人と一緒に車に乗りたくない」という苦情

 Bさん(80代,男性)は,送迎中に別の利用者(Cさん)が話した内容が気に食わなかったらしく,「Cさんと一緒に車に乗りたくない」と言いだしました。

 BさんとCさんを別々にするには2往復するしかなく,それだけで30分程度のロスがあるため,対応が困難なケースでした。しかし,それを説明しても一向に理解してくれず,「Cさんを訴える」とまで言いだすようになりました。

 そこで,Bさんが主治医に大きな信頼を置いていることを鑑みて,ケアマネジャーを通じで主治医に手紙を渡し,説得を試みてもらいました。これが功を奏し,あっさりと元どおりの送迎を了承してくれました。

 このように,権威者を使うのもうまい処理の一つだと思います。

事例3:「家に帰ってからも徘徊するのでデイで何とかしてほしい」という要望

 Dさん(60代,男性)は,若年性の認知症を患っており,徘徊が目立つようになっていました。妻や子どもとは別れ,近所の叔母夫婦が面倒を見ていました。

 たまたま当デイサービスを気に入り,利用するようになったのですが,外出欲が強く,施設にいる際も外に出たがったり,家に帰ってからも徘徊して行方不明になったりすることがありました。叔母夫婦は施設に入所させることは心苦しいようで,我々が何とかすることを強く望んでいました。

 当デイサービスは半日専用のデイサービスなのですが,Dさんには特別に一日利用を許可し,丸一日利用していただくことで夜の徘徊を阻止しようと考えました。ただし,一日いていただくために弁当を手配したり,昼間見守る職員を配置したりと,オペレーションの大きな変更を行うことになりました。

 結果,数カ月は徘徊もなく利用していただくことができました。しかし, Dさんの徘徊を完全に止めるには至らず,また徘徊を始めてしまいました。

 それからも,運動療法を取り入れて体を疲れさせるようにしたり,職員の業務を手伝ってもらい脳を刺激したりといった工夫をしました。そして,叔母にも施設を手伝ってもらい,認知症への対応について学んでもらう機会をつくりました。しかし,努力も虚しくDさんの徘徊は止まらず,警察にお世話になることが何度も続いてしまいました。

 結局,家で対応し切ることが難しいと判断され,ケアマネジャーや叔母夫婦が説得して,Dさんは施設に入所することになりました。叔母としても,私たちの対応に対し最終的にはよくやってくれたと感じてくれ,感謝の言葉をいただきました。叔母にも事業所の手伝いをしてもらっていたことが良かったのかもしれません。介護現場の苦労を分かってくれたのでしょう。また,ケアマネジャーも大変感謝してくれ,その後もたくさんの利用者を紹介し続けてくれています。

まとめと今後の課題

 本稿では,利用者に当デサイービスの利用をおやめいただいた事例1,利用者側に納得していただき当デイサービスの利用が継続となった事例2,利用者側の過度の要求と分かりつつ何とかこなした事例3の3つを紹介しました。

 苦情・クレーム対応で重要だと思うことは次の3つです。
 ①トップが素早く対応する
 ②職員と利用者を天秤にかける場合,基本的に職員を取る
 ③全力で向き合う姿勢がケアマネジャー(と利用者)の信頼を勝ち取る

 クレーム対応に答えはありませんが,早く対応して損はありません。そして,柔軟に対応するためにはトップ(またはトップを含めたチーム)で処理しなければなりません。クレームが放置されていると,利用者や家族は不満や不安が増大し,余計な被害者意識が生まれ,別の機関に対して相談をするようになります。できるだけ施設内でとどめておくためにも,素早く対応する必要があります。

 また,介護業界の人員不足はとてつもないスピードで悪化しています。せっかく介護業界に入ってきてくれた大事な人材を,クレーム対応のまずさが原因で流出させてはいけません。そういう時代です。

 そして,クレームはチャンスでもあります。うまく対応することができれば,事業所をより良くすることにつながり,利用者やケアマネジャーの信頼を得られる可能性があります。全力で汗をかき,困難なクレームに対応する姿は,利用者・家族,ケアマネジャー,職員すべての目に焼き付くはずです。あなたが責任ある立場なら,クレームに対し積極的に飛び込んで信頼を勝ち取りましょう。