デイサービスの定義と経営資源としての保険外サービス
今回のコロナ禍を機に,デイサービスの経営は,より介護のあるべき原点に回帰していくのではないかと思っています。そこで,まずはデイサービスとデイケアの法令上の定義を確認しておきます。
〈厚生労働省 基準省令第92条・110条より〉
通所介護の定義
「通所介護の事業は,要介護状態となった場合においても,その利用者が可能な限りその居宅において,その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより,利用者の社会的孤立感の解消及び心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければならない」
通所リハビリテーションの定義
「通所リハビリテーションの事業は,要介護状態となった場合においても,その利用者が可能な限りその居宅において,その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,理学療法,作業療法 その他必要なリハビリテーションを行うことにより,利用者の心身の機能の維持回復を図るものでなければならない」 |
つまり,デイサービス(通所介護)は利用者の「居宅生活」「日常生活」「社会的孤立感の解消」「家族の負担軽減」に配慮し,法令に定められた定義どおりの事業を愚直に行わなければなりません(ちなみに「機能訓練に特化してよい」とは書かれていません)。一方のデイケア(通所リハビリテーション)は「回復」という言葉が使われており,その点が前者の定義との違いです。
この「居宅生活とは何か?」「日常生活とは何か?」「社会的孤立感の解消とは何か?」「家族の負担軽減とは何か?」を議論し課題を解決していくことが,事業運営において保険外サービスや新規事業のヒントになるのではないでしょうか。
では,なぜ「保険外サービスが必要」と言われているのでしょうか。本来は,保険外サービスがなくても,保険給付事業だけで十分に利用者の満足,職員の満足,経営者の満足もあったはずです。しかし,次の事例を見てみましょう。
| 利用定員20人,稼働率80%,平均介護介護度2.5,8~9時間利用の場合で月売上約300万円。職員の月給は正社員260,000円(3人),パートタイマー100,000円(12人)で,人件費は月に約200万円。利益は100万円出ている。売上に対する人件費は67%。 |
通所介護事業として,売上対比での人件費67%は明らかに高すぎます。では,全国平均でいくらくらいがちょうどよいのか? それを判断する指標として,3年ごとの介護報酬改定でも基本的な計算表となっている「1単位の単価(サービス別,地域別に設定)」に記載されている「人件費割合」が参考になります(表1)。

通所介護の場合,③の45%が妥当な人件費割合と仮定されています。制度上の規定に沿って経営するのであれば,人件費率45%を目指すためにも,次のことを検討しなければならないということです。
(A)経費ダウン→人件費等諸経費削減による地盤固めの「守り戦略」
(B)売上アップ→今よりプラス1日1~7万円(月平均100万円以上)稼ぐ「攻め戦略」
(番外)この「計算表」自体の見直しを国に要望する(例:45%を55%に上げてほしい等)
経営者からは「今でも経費の無駄遣いなんてないのに,どう地盤固めをしたらいいんだ」「今でも毎日精いっぱいなのに,プラス100万円なんてどう稼いだらいいのか」などの悲鳴が聞こえてきそうです。しかし,実際のデータ「令和元年度介護事業経営概況調査結果(2019年12月厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会)」(表2)によると,売上対人件費率の全国平均(有効回答数通所介護事業者426件)は人件費率が63.3%であり「みんなそうなんだ」と少し胸を撫で下ろすところです。それでも収支差率(利益率)は3.3%となっており,これは月300万円の売上に対して利益が9万円少々という計算になります。台風被害でも起ころうものなら吹き飛んでしまうような利益しか残っていないということです。
このことから,保険外サービスが介護事業経営の資源になる理由がお分かりいただけたのではないでしょうか。やはり,保険事業以外から,月100万円とまではいかなくても月30万円くらいは上乗せできる仕組みを導入したいものです。
ヒントは,先述した通所介護事業の定義である「社会的孤立感の解消」や「家族の身体的及び精神的負担の軽減」です。これらを取り入れることを地域の役割ととらえて検討すべきです。株式会社日本総研の平成30年報告でも,「保険外サービスで急伸するものは運動・外出・食事・孤立の解消・フレイルの予防・健康寿命」と挙げられています。
また「今なぜ,自事業所が利用者や家族に選ばれているのか,ケアマネジャーに評価されているのか」「どのような役割で地域に認められているのか」といったところを客観的に見る必要があります。「うちから近いから」「○○さんが好きだから」「楽しいから」といったこともよいですが,もっと深掘りし,潜在ニーズを100個挙げてみましょう。

各地で展開される多様なサービス形態の事例
仕事付きデイサービス
「仕事付き(稼ぐ)デイサービス」については,多くの人が委託の仕事をとってきて内職をしてもらえばよいと短絡的に思ってしまいがちです。しかし,賃金が発生することを考慮すると,介護保険という許認可事業であるがゆえに,行政判断に基づくグレーな点も出てきます。
そこで,障害福祉事業における「生活介護事業」の導入を検討します。平成30年度の制度改正で創設された「共生型サービス」で,介護保険サービスの利用者も工賃を稼ぐというそれまでのグレーな部分を解消できるはずです。
生活介護事業での委託は,内容によっては利用者40人で生産活動収入が1千万円を超える事例もあります。もちろん,利用者40人がその「委託された仕事にプライドを持って目標に取り組む」というモチベーションも発生するわけで,そこは大事にしなければなりません。まだ,この形での全国的な広がりはないものの,自治体によっては「共生型」の運営規定の書き方として,高齢者も障害者も共に「有償ボランティア」として併記することを認められているところもあり,これから注目していきたい事業です。
園芸療法デイサービス
これは「導入」というより「デイをやりたいの? 園芸をやりたいの? どっち?」というくらいの気概を持って挑む事業です。デイサービスの企業には,申請や研修などを含めて半年かかると言いますが,園芸も同じように準備や設備の確保に時間を要します。もちろん,素人家庭菜園のレベルでは到底まねできないものなので,園芸療法としての知識を持っておく必要があるでしょう。
園芸療法では,土をつくり,種をまき,育て,収穫し,食べ,保存するというように,一連の活動の中に暮らしのさまざまな生活要素や運動機能が含まれています。定期的に外に出ては四季を感じ,さらに共同作業を通して自然と共通の話題ができ,コミュニケーションの活性化にもつながります。そして,それらは「うれしい,きれい,おいしい,良い香り,良い手触り,夜きちんと眠れる」など,五感を通した良い影響を与えます。
また,利用者に「自分が植物の成長を見に行かなければ」という社会的役割と目的ができることで,欠席率も下がります。コロナ禍でも「気になって仕方がない」という声があったため,できる限り休業しないようにし,自身や家族の都合で欠席しなければならない場合は,自分の子のように可愛がられているトマト,きゅうり,ナスなどの写真を送ることもあると聞きます。
園芸療法では,楽しみながら無理なく筋力低下の予防をすることができます。自然に足や腕を動かすことになり,特に指先のリハビリテーションに効果があります。注意すべき点は,個別機能訓練加算を算定するのに,通所介護事業として指定された機能訓練室兼食堂での機能訓練と園芸療法は,それぞれ個別に意識して訓練を行わなければならないという点です。私が実際に立ち会った実地指導では「良いですねえ。私もこんなデイに親を連れていきたいし,自分も通いたい」と指導担当官をうならせましたが…。
また,地域によっては生産物を「道の駅」に出荷して,生産活動収入を年間200万円近く得ているデイサービスもあるようです。さまざまな潜在的で相乗的な効果が大いに期待できるということです。
7−11デイサービス
ネーミングだけだと「コンビニ?」と思ってしまいそうですが,違います。名前のとおり「朝7時に開店,夜11時に閉店するデイサービス」のことです。今でこそ少なくなってきましたが「お泊まりデイサービス」の流れの先にある新サービスと言ってよいでしょう。
まだ本当に「7時から11時」というサービス形態はないようですが,「8時から開始」「21時までお預かりできます」というオンデマンドで対応しているところがちらほらと出てきています。特に,利用者と同居しており仕事が不規則な家族からの要望が多く,ここのニーズを一定数は確保できるようです。

表3をご覧ください。通常のAパターンであれば売上336万円(要介護平均2.5,8時間サービス,稼働率80%)。これをBパターンで「早い時間に預かります。夜も遅くまで大丈夫」と周知して,Aパターンと同条件で,午前と午後に3時間ずつのサービスと8時間サービスで実施したとしても,あまり売上増加の効果はありません(月9万円アップする程度)。しかし,利用したいという客層が変化し,Cパターンのように稼働率が90%に上がれば,月50万円の売上アップが見込まれます。「保険外」というより「使い方をフレキシブルに」という視点からの「7−11デイ」という,地域に少ないサービスで差別化を図ることで,社会資源としての役割が稼働率の向上につながります。
これは,相乗効果として非常勤職員の働き方をフレキシブルにでき,職員の働き方改革につながります。バブル期のような我を忘れて働く時代ではなくなり,自分の生活を中心に据えた「朝の数時間だけ」「夕方から夜まで」などのワークシェアリング的な働き方が選べるという点でも,時代に合っていると言えます。
まとめと今後の課題
介護職員の中には,「おじいちゃん・おばあちゃんの笑顔が好きだから」という理由から介護現場で働きはじめる人も多いのですが,その志が途切れたとたん離職してしまうことが多いのもこの業界の特性です。「自分がいないと」という職責へのプライドもモチベーションを上げる要素にはなるのですが,それが呪縛となると,フッと凧糸が切れるようにモチベーションを失ってしまう瞬間もあるのです。「自分がいなくても,誰かがバックアップしてくれる」という安心感が必要です。
また,経験を積むために介護予防や療養の方法を学びたいという人もいて,そういう職員への情報提供が代替行為として機能することもあります。例えば,アロマ療法の効果を試したい,医療の側面からペットセラピーの効果を体験したい,ポリファーマシーの問題から減薬療法に取り組みたい。そういう医療に近いサービスの柱を増やしていくことが,さらなる潜在的保険外サービスの導入につながるかもしれません。
新しい取り組みとしての保険外サービスの導入のために,潜在ニーズ100個を掘り起こすことで「攻め戦略」を拡大することも大事ですが,最優先すべきことは,職員の「働く安心感」を確保することだと確信しています。職員の定着率を上げることは,保険外サービスの発展に直接寄与するものではなく,逆にどちらかが上がればどちらかが下がるリスクもあるかもしれません。しかし,職員の介護福祉を超えた考え方や行動が,良い相乗効果を生むことへの期待はできると思います。 |