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求められる「新しい標準」の答え

 新型コロナウイルスの感染拡大によって常識は一変し,ウィズコロナ期の『新しい生活様式』に適応したニュースタンダード(新しい標準)の模索が始まったと言える。そんな中,民間の知恵とも言うべき保険外サービスが今まで発展してこなかった要因として,保険外サービスはボランティアファーストで,営利は排他すべきという「従前からの"福祉"概念」があることは否めない。

 困っている人からお金を取るなんて気の毒だ。助けてあげるべきだ。しかし,コロナ禍で国の財政は大きなダメージを受け,経済の立て直しが急務となっている。そうなると,もはや行政が助けてくれるという神話は崩壊したと言ってよい。

 2020年9月21日に総務省から新しい人口推計が発表され,65歳以上の人口は3,617万人,高齢化率は28.4%に達した。70歳以上の女性が25.1%となり,全女性の4分の1が70歳以上という状況である。支援対象が増え,担い手が減る中,ニュースタンダードとはどのような形なのか? 今,その答えが求められている。

「迷惑をかけない」がビジネスキーワード

 「困り事を解消してほしいのであって,制度を使いたいわけではない」「より豊かな暮らしや体験のためには,消費は必要経費」など,街のニーズは至ってシンプルだ。とりわけ強く感じるのは,「人の手をわずらわす側の人にはなりたくない」という高い自尊心だ。立派な心がけである。

 しかし,その自尊心が脅かされた時,その人は地域から姿を消し,次に私たちの前に姿を見せる時は要介護認定を受けた利用者になっているという状況も,地域社会における課題の一つだ。自立支援を唱えながら,身体的アプローチに偏重し過ぎた介護予防事業のひずみだと言わざるを得ない。実際問題として,社会的フレイル(資料1)という状態が全国で進行している。

 世界最長寿国であるにもかかわらず幸福度指数が著しく低いというのも,この部分に起因していると私は見ている。我が国の美徳である"人に迷惑をかけてはならない精神"は,いつしか自立していなければ参加できない社会を創り出した。"迷惑をかけるようになれば退場しなければならない社会"…なんと寂しいことだろうか。

 とは言え,今ここを嘆いても仕方がない。理想は,お互いの不足を認め,程良くもたれ合える社会の実現だろう。しかし,国が唱えるような古き良き互助の復活は容易ではない。利用者にとって保険外サービスとは,直面する課題の解決手段というだけではなく,社会的にも安心・安全なものである必要がある。

 「迷惑をかけない」というニーズは,本人だけの気持ちではない。親を支える家族にもそのニーズを強く感じる。それらをネガティブにとらえるのではなく,むしろ「こうすれば迷惑をかけずに安全を,安心を,快適を,幸福を享受できる!」という提案こそが,活路となるのではないだろうか。

保険外サービスの企画段階とそのポイント

 では,介護サービス事業者が保険外サービスを始めようと考えた時,どのような展開方法が考えられるだろうか?全く違う業態を始めるのもよいだろうが,私は本業とのシナジー(相乗効果)を生む事業を推奨する。

 全国的には,デイサービスの空き時間を活用したフィットネス事業や,リハビリテーション指導を動画にまとめて配信する一般向けのオンライン事業,完全自費の介護旅行の提案など,独自の事業を展開する会社が増えているが,多様なサービスが生まれては消えているのが現状である。そこで,私が考える保険外サービスの企画段階におけるポイントを資料2にまとめた。当社の運営する『カフェ×ケアプランセンター』のケースを例示するので,保険外サービスを企画構想するに当たってのヒントとしていただければ幸いである。

 

例:『カフェ×ケアプランセンター』の場合

【事業目的】

・住民主体による商店連携の互助システムを構築し地域で経済を循環させる。
・要介護当事者ではなく介護予防群やその家族,地域の支援者の信頼を獲得する。
・ケアマネジャーの専門性を活かした新しい働き方を示す。

【市場調査(街の流れ)】

 当社は,昔から地域住民を支えてきた商店街の中にある。前面道路はバス通り。向かいに郵便局,徒歩1分のところに銀行と食品スーパー。地域住民は用事がある時,たいていこの商店街に集まってくる。当社の営業時間となる日中,街に居るのはほとんどがシニアである(資料3)。

 アクティブシニア層は,自身の健康を維持したい,豊かに暮らしたいと願っている。さらに,誰かに貢献するパワーと想いを秘めているが,責任を負いきれないというジレンマを抱えている。本音で言えば,地域課題の発見はしているので,そのバトンをうまく渡したいと思っている。


【ストレングスと弱み】

 ケアマネジャーは高い相談援助スキルを持ち,制度の知識や地域の社会資源にも精通している。会話の裏にある真のニーズをアセスメントする力も持っている。しかし,ケアマネジャーが介護保険の認定を受ける以前の人とつながり合う場面を持ち合わせていることは稀である。仮に街の人から相談を受けても,保険給付の対象とならない相談は無報酬活動となる。多忙なケアマネジャーには,想いはあってもボランティアを継続していくことは困難である。

【相乗効果】

 街の人々は,飲食店としての普通のカフェにただ談笑に来る。そこでの話は,他愛のないものもあれば,健康に関すること,誰かの困り事についてなど多様だ。会話を楽しみ,対価を支払い,自由に帰っていく。これだけでも介護予防効果は絶大だ(資料4)。

 こんな日々を繰り返す中で,カフェの店員に話していた雑談が,いつしか解決したい相談に変わることもある。その段階が来たら,ケアマネジャーとして責任のバトンを引き継ぐ。仕事に直結しないと思うかもしれないが,そうではない。この信頼関係を結んだお客様が,街に姿を見せなくなった人(隠れた生活困難者)と引き合わせてくださるのだ。

 この「おせっかい力」は,大阪ならではのものなのかもしれない。「地域の社会資源を発掘することは,ケアマネジャーの仕事の一つだ」と言うと,机上の空論だと一笑に付されることも多い。しかし,果たして本当にそうだろうか? 事実,カフェの常連客は飲食店営業の売り上げの要であり,ケアプランセンターにとっては街の高感度なアンテナとなっている。カフェ開設前と比較すると,介護相談件数もコラボ事業案件の持ち込み数も数倍に増えた。

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 上記の例のように,事業規模としては小さくても,さまざまな資源や機会を掛け合わせることで,大きな効果を生むことができる。ぜひ,保険外サービスの企画段階において,この4つのポイントを地域の中で話し合ってほしい。

介護こそが究極のホスピタリティ産業

 前述した『カフェ×ケアプランセンター』の例は,あくまで一例に過ぎない。保険外サービスの事業を成功させるには,既存の枠組みを壊す思考が不可欠だ。介護保険事業の世界から脱却し,街で暮らすすべての人に対し,自分たちのストレングスをもって貢献できることはないかと発想してほしい。

 聴覚障がい者を"助ける"ことを業とせず,逆に聞こえないから身についた「伝えようとする力や表情などから読み取る力」を強みととらえ,それをコミュニケーションスキル研修や企業コンサルティングとして売り出している会社がある。また,離れて暮らす身内を案ずるニーズにフォーカスを当てた安否確認サービスに注力する会社もある。時にICTを活用し,本当に必要な時に専門職が動くように有効な割り振りができるシステムを構築することで,減少する担い手問題や,家族の不安や負担を解消するのがねらいだ。例えば,監視カメラだけでは安心は付与できないことがある。セキュリティー会社が電話をしたり駆けつけたりしても対応できないことを,介護のプロはやってのける。

 介護業界が長年にわたり身につけてきた知見やスキルは,実は一般的なマーケットではすごく価値のあるものなのかもしれない。

 マスコミが介護のネガティブキャンペーンを発信する,と嘆く人がいる。確かにその傾向はある。しかし,人が何かを恐れる時,その対象は大抵"得体の知れないもの"であることが多い。これを逆手に取れば良い。

 世間はまだ,介護の表層しか知らない。介護保険制度の運用範囲内で困り事を解決するのではなく,障害や高齢,認知症のケアを通して培ってきたノウハウを社会課題に還元する時が来たのだ。保険外サービス事業のニュースタンダードは,まさにそこから始まるのかもしれない。介護こそが究極のホスピタリティ産業なのだと胸を張ろう。