第2回

目標のブレイクダウンと目標設定手法「ベーシック法」


金津健治

マネジメントユースウェア研究所 代表
日本キャリア開発協会 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)




目標のブレイクダウン

 目標設定の際,私たちは「ブレイクダウン」という用語を使用しますが,本連載ではその意味を「上位の目標を下位の目標に落とし込む,具体化する」と定義します。看護師長として,医療法人全体の目標や看護部の目標を,どのように看護師長の目標やスタッフの目標へとブレイクダウンするのかを押さえておくことは重要です。



 本稿では,複数の病院を運営する医療法人をイメージして目標のブレイクダウンについて紹介します。



ブレイクダウンのフロー

ステップ1.
医療法人全体の目標・方針の明示

 理事長などの経営トップより,目標・方針が示されます。もちろん,この目標・方針は,部長・課長が昨年度の実績や環境変化,トップの期待を踏まえ,課の目標・方針を部の目標・方針に束ねてトップに提言した上で,役員会で審議・決定されたものです。



ステップ2.
課・部の目標・方針の明示

 医療法人全体の目標・方針が正式に示されたら,それを基に部・課の目標・方針が明示されます。注意したいのは,大半の機関では「課の目標は課長の目標である」ということです。次回詳しく述べる予定ですが,課長のマネジメント目標を設定しない機関もあります。



ステップ3.
スタッフの目標設定

 課(課長)の目標が決まったら,スタッフの目標を設定します。





課題組み立てチャートを用いたブレイクダウン

 次に,「課題組み立てチャート」を使って,やるべきことを可視化しブレイクダウンする方法を紹介します()。



図 課題組み立てチャート(記入例)※クリックで拡大





ステップ1.
課題組み立てチャートの原紙を作成する

 まず,A3判用紙,付箋紙(1.5㎝×5㎝)を用意し,「課題組み立てチャート」の原紙を作成します(読者の皆様は,本稿末尾にあるボタンより原紙データをダウンロードして利用してください)。



ステップ2.
「環境変化と法人への影響」と「上位部門の目標・要求」を考える

 「環境変化と法人への影響」と「上位部門の目標・要求」はセットで考えます。記入例では,総務課のA課長が総務部の目標・要求「廃棄物処理の徹底」に,その背景を矢印で次のように関連づけています。



 自治体から廃棄物処理徹底の要請あり
 →要請に応えないと住民,患者からの評判が低下する恐れあり
 →最優先の取り組みが必要!



 なお,このように文字数が多い場合,無理に付箋紙1枚にまとめる必要はありません。2~3枚に記入して貼り付けましょう。



ステップ3.
上位部門の目標・要求に応える上での制約,問題を考える

 目標・要求に応えるには,さまざまな制約・問題に向き合わなければなりません。記入例では,「医療・産業廃棄物などに関する職員の知見が不足」などが挙がりました。



ステップ4.
課題・目標に転換する

 制約,問題を見極めたら,課題・目標(解決,遂行すべき事柄)を考えます。記入例では,「職員の廃棄物に関する知見の向上」などが挙がりました。



ステップ5.
達成基準を設定する

 目標が達成できたかを評価するために,達成基準を設定しておきます。記入例では,「職員全員が医療・産業廃棄物などの内容を理解する」などが挙がりました。



ステップ6.
手段・方法を提起する

 課題・目標を達成するための手段・方法を洗い出します。記入例では,「管理職や職員へのニーズヒアリング・分析」などが挙がりました。



ステップ7.
分担を予定する

 最後に,提起された手段・方法を誰が実行するかについて検討します。



目標設定手法「ベーシック法」

目標設定指導の際にありがちな困り事

 皆さんは,スタッフの目標設定指導の際,次のような疑問・困難を感じたことはないでしょうか。



 ・目標を評価する際,何を根拠とすべきなのか。
 ・数値化できない目標は,どのように設定すればよいのか。



 前者は,使用する目標シートの様式が大きく影響しています。後者は,定性目標を明確にとらえるノウハウが足りていないために起こる問題です。 これらの問題は,今回紹介する「ベーシック法」により解決することができます。





ベーシック法の特徴

目標の記入欄を2つに分ける

 目標シートの記入欄が「フリースタイル方式(自由記入方式)」だと,どこがゴールなのかが明記できていない場合があります。そうなると,上司との評価の食い違いが生じる恐れがあります。したがって,目標シートの記入欄は「指定方式」にして,目標を「何を(目標項目)」「どのくらい(達成基準)」に分けて記述します(表1)。



表1 目標シートの記入方式





3つの達成基準で具体化する

 「私の部門では目標を定量化できません。定性的な目標ではいけないのでしょうか?」「当院では能力向上の目標を設定しますが,数字で表すことができません。どのように具体化すればよいでしょうか?」といったお悩みをよく耳にします。実は,目標の達成基準を示すものは,数値だけではありません。「数値」「状態」「スケジュール」の3つがあるのです(表2)。



表2 3つの達成基準





・数値基準

 数値基準とは,目標とする成果を数値で示すものです。多くの人が思い浮かべる基準であり,明確です。なお,%で表すものなどは計算の仕方によって上司と部下の評価に食い違いが生じる可能性があるので,「小数点以下は切り捨て」「小数点第2位を四捨五入」など,計算方法を明確にしておきましょう。



・状態基準

 状態基準とは,目標とする成果を状態で示すものです。自己啓発目標,部下指導育成目標など,ある一定の能力水準を表す場合に効果的な基準です。記入例では,「Aさんの入退院の説明力向上」という目標項目に対し,「一人で患者さんや家族に入退院手続きなどの説明をし,質問に回答できるようになる」という状態基準を設定しています。



・スケジュール基準

 スケジュール基準とは,目標とする成果を「いつまでに何をする」という日程で示すものです。記入例では,「今年度末までに,○○感染防止対策マニュアルを作成する」と明示しています。



期限設定と達成計画の立案も忘れずに!

 1年,半年,四半期など,目標の期限はそれぞれです。いつまでにゴールに到達するのかを明確に示しましょう。また,定めた目標に向かってどのような行動を起こしていくのかについて,具体的な達成計画を立てることも欠かせません。



ベーシック法による目標設定指導

 それでは,ベーシック法を用いた目標達成計画シート(表3)により目標設定指導を行う場合の手順を紹介します。



表3 ベーシック法を用いた目標達成計画シート(記入例)





ステップ1:目標項目を記入する

 目標項目では,目標の方向性を示します。



 「望ましくないものを望ましい方向に進める」のであれば,「改善,削減,防止」などの表現になります。「望ましいものをより望ましい方向に進める」のであれば,「強化,改善」などの表現になります。また,維持することが困難なことに対して「望ましいものを望ましいままに進める」のであれば,「ゼロ災害の継続」といった継続目標を設定することもあります。



 記入例では「○○感染防止業務の標準化」としており,これは「望ましくないものを望ましい方向に進める」目標項目です。



ステップ2:達成基準を記入する

 前述したとおり,数値基準,状態基準,スケジュール基準のいずれかで具体化します。記入例では,「○○感染防止対策マニュアルを作成し,承認を得て実施する」としており,スケジュールで具体化しています。



ステップ3:期限を記入する

 期限はたいていの場合,年度末か半期のいずれかです。期限がはっきりしている場合には,具体的な日付まで記しておくとよいでしょう。記入例では,年度末なので「3月31日」としています。



ステップ4:達成計画を記入する

 時期,手段,方法,タイミング,頻度,手順,活用ツール,担当などあらゆる角度から具体化します。





 ベーシック方式は,その名のとおり目標設定の大原則です。管理者だけでなく,スタッフ全員が理解しておく必要があります。朝会,カンファレンスの合間などに時間をつくり,表2・3だけでも紹介することをお勧めします。その際,職場の環境に合わせた目標シート記入例を作成して周知すれば,さらに効果が高まるでしょう。ぜひ,ワークシートをダウンロードしてチャレンジしてみてください。



金津健治:1976年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後,日本能率協会コンサルティングなどを経て,2019年産業能率大学総合研究所主席研究員として定年退職。その後も講師契約を結び管理職,看護師長のマネジメント・評価者研修に従事。著書は,『「管理職」のための七つの道具術』(プレジデント社),『人事考課の実際』(日本経済新聞出版社),『目標による管理―組織成果を高める運用法,職場水準に応じた展開法』(経団連出版)ほか多数。